小説

□祭り囃し【後】
1ページ/1ページ



醍醐が瑞希の姿を確認したのはその小さな身体が普段着慣れない浴衣に足をとられて、前のめりになった所を咄嗟に支えた時だった。


瑞希を見つけた、という安堵の溜め息を吐き出し安心に胸をなで下ろして怪我はないだろうかと肩を掴んで顔を覗き込めば一瞬キョトンとしていたその表情はあっと言う間に喜びと嬉しさの入り混じった笑顔に変わった。


「良かったぁ、皆とはぐれてどうしようかと思ったの」


するりと腰に抱きついてきた瑞希の頭を優しく撫でた。
平静を装っているが、瑞希の柔らかい感触に醍醐の心臓は高鳴っている。

「ってあれ?
他の人は居ないの?
醍醐も皆とはぐれちゃった?」


やっと落ち着いて辺りを見回した瑞希がそう言うのに気がついて、己も周りを確認してからやっと龍麻のあの台詞に乗せられた、という事に気がついた。



「そうみたいだな・・


・・・なあ瑞希、ふ、2人で歩かないか?」


友人の粋な行動に自分も応えなければ、と意を決して言葉に出してみたが緊張のためか少しだけその声は裏返った。

でもそんな事も気にしない風に再び花が咲くような笑顔を見せた瑞希に醍醐の頬も緩む。



「それじゃあ花火大会、もう直ぐ始まっちゃうから早めに行こっか!
僕ね、穴場知ってるの!」

他の人には内緒だよ、と小さな手で自分のゴツい手のひらを掴んだ小さい彼は走り出す。

(けれどまた転けそうになったのは余談だ)






「ほら、ここだよ!」


前を歩く瑞希が息を切らしながら嬉しそうに此方を振り返った。

山道を登ってきたせいで少しだけ汚れてしまった浴衣を庇うように裾をめくり上げているので、白い脚が露わになっている

「此処は暗いな」


そそっかしい瑞希がこけないように気を付けながらそう言って、自分で驚いた。
若い思考は少しだけ邪な思考にそれてしまった。

でも瑞希にはそんな醍醐の様子には気がついていないようだ。


「ほら、こっから花火が上がる河が一望できるでしょ?」

「あぁ、確かに穴場だな」

夏とはいえすっかり暗くなってしまった夜の空気が先程の人混みの熱気を忘れさせてくれるな、と思いながら瑞希の隣に座った。


「あ、ほら!
花火上がった!醍醐、見て!」



火薬の匂いに空を見上げれば、爆発音と共に夜空に鮮やかな色彩が綺麗に咲いた。

音に揺らめく水面にも同じ色が写っている。



「わぁ、綺麗!」

「あ、あぁ・・そうだな」

はしゃぐ瑞希に目をやれば、花火の明かりに照らされたその唇は、先程醍醐が買ってあげた林檎飴のせいで赤く染まっている。


そのせいなのか、幼い顔のはずなのに、今日はなぜか色っぽい気がする、と醍醐は花火どころではない。



「ねえ、醍醐?」


醍醐の緊張が伝わったのだろう、怪訝な表情をした瑞希が醍醐の瞳を見つめた。



「っ・・あ、いや」


高鳴る胸が瑞希に伝わらないように、と思えば思うほどに焦ってしまう。


「・・醍醐?」




ゆっくりと呼ばれた自分の名前に、目の前で閉じられた瑞希の瞳。

思わず身体が強張ってしまう。






自然と近づく顔
唇がそっと重なった。


想像していたよりも柔らかな感触に恥ずかしくなってしまい、直ぐに顔を離し、ぎゅうと思い切り抱きしめた。






「み、瑞希
あの・・良かったら俺と
つ、付き合ってくれないか?」




やっとでた言葉に、瑞希は小さく耳元で微笑んだ。



「うんっ・・、
有難う、醍醐、大好きだよ!」





気が遠くなりそうなくらい嬉しい言葉に、もう一度ゆっくりと唇を重ねた。


ーーーー

オチを投げてすいませんw


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ