小説
□僕の左様なら
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刹那──、何が起きたのか自分ではよく分からなかった。
けれど霞がかった視界の奥に見える雄慶の凍りついた表情と、俺の白い着物に飛び散った朱色を見て何となくそれを悟り、ゆっくりと重たい頭を地面に置いた。
先程まで自身を襲っていた、体中を刺す様な激痛は驚く程に和らぎ、溶けてしまいそうな位に沸騰していた体温は凍えるくらいに下がってしまった。
「瑞生」
「大、丈夫・・」
掠れた声。
自分の意志では既に動かせなくなった右手を雄慶が力強く握っていて、優しい温もりがそっと伝わってくる。
「雄慶、俺さ」
「何だ?」
朦朧とした思考が中々言葉を綴ろうとしない。
言いたい事がまだ沢山在るのに
一言じゃ足りないくらい在るのに。
嗚呼、もう
時間が足りない。
体が段々と重くなる。
そしてそれに合わせるように、意識と意志が弱々しく力を失っていく。
自分としての何かがもう直ぐ此処から消滅してしまうのだ。
「雄、けい」
視界から光が無くなる
彼の顔が、見えない
彼の顔も、既に思い出せない。
優しい
優しい体温が、
体温だけが
「─・・・ゆ、・・・・うけ い」
ああ
もう、かれのてを
にぎりかえすことも
できない
それは、イヤだ
なによりも
かなしい
かなし い
「愛し─── ・・・