小説

□江戸仲間
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今日も今日とて元気に高熱を出して寝込んでいる若だんなの部屋に突然鈍い音が響いた。




「お前──、一体何をしていたんだい?」


ガツンと派手に吹っ飛ばされた音と共に降ってきた信じられないくらい低い声。
組み伏せられている青年の口の端には酷い青痣が出来ており、けれどその視線は明瞭(はっきり)と佐助の方を向いている。


「──別に、お前等が心配する様な事はしてないから安心しろよ」


だから離してくれ、と言わんばかりに佐助の肩を押してみるが人成らざる佐助の力は強く、力を込められた指の爪が更に青年の肩に食い込んだ。


「若だんな!大丈夫ですか!?」


青年が吹っ飛ばされるのと同時に一太郎の傍に駆け寄った仁吉は若だんなの顔を心配そうに覗き込むと少し驚いた様な表情を浮かべ、それを見た佐助が先程よりも凄い剣幕で青年に怒鳴る。


「坊ちゃんに何をっ・・?!」


肩だけでは物足りぬと言わんばかりに今度は乱暴に胸ぐらに掴み掛かると、もう一度その屈強な拳を振り上げた。

が、その瞬間一太郎が呻き声を上げたのを聞いて佐助は青年を畳の上に放り投げ、若だんなに駆け寄った。


「坊ちゃんっ!」

「ん・・・佐助と仁吉、かい?」

薄らと開かれた瞳が朦朧としながら二人の手代の姿を確認した。
若だんなの元気そうなその声音に胸を撫で下ろした佐助と仁吉は近くに転がっている青年に再び視線を向けた。


「さて、若だんなに何をしていたのか説明してもらいましょうか」


仁吉が言う。
丁寧だが随分と冷たい言い方だ。


「おまえたち一体何を──?!
って瑞希じゃないか!なんだってそんな傷をこしらえてるんだい?!」


まるで襤褸雑巾の様になってしまった青年、もとい瑞希を見て慌てて駆け寄ろうとした、けれど一太郎の体は両脇から犬神と白沢に押さえられてしまい、動くことが出来ない。


「若だんな、動かないでください」


「どうしてだい?!
離しておくれよ!」


「いけません!
そんな高熱を出しておいて・・、?」


はたと仁吉が何かに気が付いた様に首を傾げた。

「私の何処がそう見えるんだい?」


佐助も元気そうな若だんなの姿を見て不思議そうにしている。
先程まで高熱で苦しんでいたはずの若だんなが驚く程元気に動いてるではないか。


「あー・・・、一太郎大丈夫か?」


ゆっくりと立ち上がった瑞希が掠れた声でそう言った。
口の端は切れ赤黒い血が流れている。


「瑞希っ」


一太郎が心配そうに名前を呼ぶ。
兄や達は腕を中々解いてくれそうにない。

「ん、元気そうで何よりだよ」


青痣をこしらえた顔で弱々しく笑う瑞希に若だんなは顔をしかめた。


「瑞希、これはお前の仕業かい?」


先程よりは幾分柔らかい顔付きで仁吉が青年に問う。
すると瑞希は白い着物の袖で口から流れる血を拭いながら、頷いた。


「ほんの少しだけ一太郎の悪い[氣]を吸わせてもらったよ」

「氣?」


若だんなが首を傾げた。

「特殊能力、じゃなくて体質かな」

「おやまあ、妖でもあるまいし・・
瑞希、本当なのかい?」


驚いた様に目を見張り、両隣に居る2人の兄やに目線をやったが白沢と犬神はさほど驚いていない様だ。


「嘘なんか言わないよ
俺が今まで一太郎に嘘を付いた事があったかい?」

「随分とある気がするけどねえ」


瑞希の悪戯気の混じった笑みにつられて若だんなも顔を綻ばせる。

「でもまあ凄い体質なんだね、それで君は何時もそれで誰かの病気を治しているのかい?」

「体質って言ってもこれはそんなに気軽に使えるもんじゃあないんだよ」

「そうなのかい?」

「人を治療するなんて俺には不向きらしくてね
少し[氣]を吸うだけで随分と体力を食われちまうし、君の兄やに見つかってこの様だし

いやぁ、まったく美里には頭が下がるよ」


尤も美里は吸うのではなく氣を解放するのだけれど、と若だんなには分からない追記が加わった。

「やっぱりお前たちが瑞希を殴ったんだね?」


一太郎は珍しく少し怒った様な顔で兄や二人の顔を見た。
だがそんな若だんなに瑞希は慌てて口を挟む。

「一太郎、あれは確かに俺が悪かったんだ!だから責めないでやってくれ」

「・・でも」


「全く、先刻は肝を冷やしましたよ」


仁吉は悪びれる様子もなくそう言った。
だが佐助は少しばつが悪そうである。
けれどやはり謝ることはしない。


「突然感じた事のない異様な威圧感と気配を感じて若だんなの部屋に飛び込んでみたら、瑞希が若だんなの傍で何やらやっていたからねぇ」

「それに瑞希が一瞬でも私達に殺気を見せるから思わず、な」


仁吉、佐助の順で一太郎に先程の出来事を簡単に話す。
概要だけの説明だったが聡明な若だんなは直ぐに理解したようだった。


「いや、明らかに敵意を持った奴らが障子を蹴破る勢いで来たから俺も思わず・・」

「そういう事だったのかい・・、2人とも早合点はもう止してくれよ?

瑞希、塗り薬でも塗るかい?」


「んー、大丈夫
明日には治るよ」

「おや、随分と羨ましいこと」



楽しげに笑う一太郎に瑞希も花の様に微笑んだ。


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よく分からないがとりあえず一太郎に過保護な兄や仁吉と佐助を書きたかっただけw


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