小説
□epilog.prolog
1ページ/1ページ
※しゃばけ+魔人
――
「───仁吉、さん?」
口をついて出たその名前に、目の前の人物は弾かれた様に此方を振り返り、そして僕の姿を呆然と見つめ返すと、訝しげに首を傾げた。
「・・もしかして瑞生ですか?」
彼、仁吉さんが信じられないといった表情で呟く。
僕はその言葉に静かに頷くと笑って見せた。
「──これは驚いた
瑞生・・ちょいと縮んだかい?」
その端正な顔を緩ませると僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。
まるで子供扱いだ。
いや、実際そうなのだけど。
「・・仁吉さんが居るって事はやっぱり此処が一太郎のお墓なんだね?」
両手に抱えていたバケツと菊の花を足元に置き、僕と仁吉さんの前にある古びたお墓に目をやる。
「──えぇ、若だんなのお墓です」
お墓は丁寧に掃除された後があり、スーツ姿の仁吉さんの手には雑巾が握られていた。
きっと彼が綺麗にしたのだろう。
「そっか、うん、来て良かった──」
僕は鞄の中から饅頭の包みを取り出し、一太郎の墓前にそっと供えた。
それを見ていた仁吉さんが「良かったですね若旦那、」なんて嬉しそうに微笑んでいる。
「それにしても、瑞生さんは今日が若旦那の命日だと知っていたんですか?
貴方が死んだのは若旦那よりも随分前の話ですよね?」
「仁吉さんも随分嫌な言い方するねぇ・・
確かに僕は早く死んじゃったけど・・」
はぁ、ため息をつく僕に仁吉さんは続ける。
彼は一瞬だけ泣きそうな顔を見せた。
「──瑞生は、生まれ変わっても記憶があるんですね」
「・・・!」
嗚呼
そうか
そうだった──。
「貴方は」
昔の記憶。
今の僕が生まれる前の遠い遠い記憶の中の仁吉さんは、目の前に居る彼と寸分も違わずに微笑んでいる。
「あの日からずっと、生きているんでしたね」
生まれ変わって別人になった僕とは違い、
彼は、仁吉さんは、白沢という妖怪は、
ずっと
ずっと
「仁、吉さっ・・」
「おやおや、何を泣く事がありますか」
「だって、だって・・っ」
思わず零れた涙を仁吉さんが拭ってくれる。
思わず抱きついて、胸板に顔を埋めるとゆっくりと頭を撫でてくれた。
「そんなに泣かれると私は若旦那に叱られてしまいます」
「また逢えて良かったっ
佐助さんは?佐助さんにも逢いたい・・っ」
「それなら瑞生の後ろに」
泣いている僕に対して仁吉さんは実に冷静に背後を指差す。
ゆっくりと振り向くと、彼の言うとおり相変わらず強面な佐助さんが柔らかな笑みで其処に居た。
「佐助さぁあん!」
突然飛びつく僕に驚きもしない佐助さんは、やんわりと受け止めてくれた。
「生まれ変わると随分人は変わるもんなんだなぁ」
数百年ぶりに再会して第一声がこれである。
確かに気持ちは分かるけど。
「──坊ちゃん、良かったですねぇ
貴方の大親友が来てくれたみたいで」
そして佐助さんはゆっくりと丁寧に一太郎の墓前で手を合わせた。
仁吉さんも隣に並んだので僕も並ぶ。
「一太郎、君の兄や達は相変わらず元気だよ
今日は君にも兄やたちにも逢えて嬉しかったよ、ありがとう」
線香の煙が三本分、乾いた冬の空に舞い上がって行くのを見届け、僕は立ち上がると2人に別れを告げた。
学校をサボって来たのでそろそろ行かねばならないのだ。
「瑞生、最後に教えてください」
「ん?」
「・・何故今日が命日だと?」
「んー、とね
最近友人がやってる骨董品店である屏風を譲ってもらったの」
悪戯に笑う僕を見て、白沢と犬神が顔を見合わせた。
「───彼が教えてくれたんだ、今日だって」
それじゃあね、
そう言って走り出した僕の背後からは2人の楽しげな笑い声が聞こえた。
――――
キャラ崩壊な件