小説

□まだ君をよく知らなかった自分たちのある日
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9月も入ったというのに今だ空は真夏の様に青い。
そんな日に限って、この暑いなか体育はマラソンのようである。

「暑いねぇ、醍醐」

移動途中、横で歩いていた瑞希がそう言った。

「そうだな水分補給はキッチリしないとな」

そう返すと瑞希は何故か満足そうに笑った。
それにつられて俺も笑う。

「暑すぎるっての!この暑いなかマラソンなんてどうかしてんじゃねーの?!」

京一は大声でそう喚きながら俺達の後ろをダラダラと歩いている。
文句を言っているわりにはちゃんと出席するようだ。

ちなみに緋勇はいない。
体育をサボる佐久間の後にくっついて何処かへいってしまった。


「醍醐、京一、無理しないでね?」

「おう!まかせな」


京一は瑞希の言葉になぜかデレデレとした表情で返事を返した。

「くぅ〜、やっぱ癒されるぜ!」

ああ、だからか。
たしかにアレの笑顔を見てると落ち着くな。

「ほら、京一遅れるぞ」

すでにチャイムは鳴っている。
俺たちはなり終わる前に、と走り出した。



「おい、醍醐」

マラソンが始まりしばらくしてからずっと後ろで走っていた京一が俺の隣に並んだ。

「なんか瑞希の様子おかしくねぇか?」

そう言われてから瑞希がいる方を見てみた。

「・・・本当だな」

瑞希は歩いてどこかへ行こうとしてるらしいのだが
その足取りはどことなくおぼつかなくてフラフラとしている。

「ちょっと見てくる」

「俺も」

俺達二人はマラソンのコースをはずれ、急いで瑞希の下へと駆けつけた。


「おーい、瑞希!」

京一が呼びかけると瑞希はゆっくりと振り返った。
その顔は大量に発汗しており、とても赤い。

「うわ、大丈夫かよ?!」

「・・・う、うん・・・大丈夫・・・へいき」


なにやら聞き取りにくい声で瑞希はボソボソと返事を返したが
あきらかに大丈夫とは思えない。


「瑞希、保健室行くか?」

「だいじょー・・ぶ、だから・・・」


そこまで言うと瑞希は糸が切れたようにその場に倒れこんだ。

「うぉっ?!おい瑞希!!」

「大丈夫か!?」

声をかけても返事が返ってこない。
気絶したようだ。

「醍醐!保健室だ!!」

京一にそう言われるまもなく俺は瑞希を抱え上げた。
その体は思ったよりも軽くて、力をあまりいれずに持ち上げることができた。





「熱中症ね、軽症でよかったわ」

保健室の先生は安心したように言った。
その言葉に俺もようやくため息をつけた。

今瑞希はベッドで寝かされ、体のあちこちに冷えたタオルが被せられている。
どうやら今は寝ているようだ。

「醍醐、俺は先に教室に帰るけど・・お前はどうする?」

「いやまだここに居るとするよ」

「そっか、じゃ帰る時はお前の鞄も持って来ることにするよ」


こういう時だけ気がきくんだよな、京一は。
俺はそんな友人に少しの笑顔をもらした。


「えー・・っと、醍醐くん?先生ちょっと職員会議があるから行くけど・・・大丈夫?」

「あ、はい大丈夫です」

「そっか、よろしくね」


そんな感じで京一と先生は出て行った。


「・ ・ ・ ・」

俺はベッドの近くにイスを持ってきて、それに座った。
瑞希を見れば苦しそうに息を繰り返している。

大丈夫・・・なのか?


ふと、瑞希をこんなにジックリ見るのは初めてだな、と思う。
いや、普段人間なんてジックリ見ないのだけれど。

大きめのズボンに大きめの制服を着ている瑞希。
上着は第三ボタンまではずされている。


「・・・?!」


驚いた。
瑞希の制服の下は包帯でグルグル巻きだったのだ。

もしかして戦闘中に怪我でもしたのか。
でもそんな事はなかったはずだ。


「瑞希・・・・・・?」


手をのばして、そっとその体に触れてみる。
熱中症によりあがった体温が手に伝わってくる。


「・・・・怪我、してるのか?」


そう問いかけても、瑞希は何も言わない。


「・・・・・・・瑞希」


「っ・・・・・いか・・ない、でっ・・・イヤ・・・」


「瑞希・・?うなされてるのか?」



閉じている目から大きな涙がボロボロとこぼれる
そして苦しそうな悲しそうな声をあげる。


「おいてか・・・ないで・・・・」


まるで迷子の子供のように、泣きじゃくっている。


「瑞希、置いていかないよ」


汗ばんだ頭をやさしく数回なでた。
すると瑞希はかすかに口角をあげ、それから静かに眠りはじめた。


「おーい!醍醐っ!!瑞希の容態どうよ?!」

「みーちゃん大丈夫?!」

「瑞希くんっ・・・」

と、そこに入ってきた京一、桜井、美里。
それから緋勇もいる。


「・・・・・・・・」


そして俺を見て、みんなは何故か動きを一瞬止めた。


「醍醐が瑞希おそってるぅぅうう!!!」(京一)

「ダメだよ醍醐クン!ちゃんとみーちゃんの了承を得てからじゃないと!!」(小蒔)

「醍醐くん・・・やっぱり・・・」(美里)

「瑞希を襲うのは俺だ!!」(ひーさま)


「・・・か、勘違いにもほどがあるぞ!
 桜井!了承を得たらいいのか?!
 美里!やっぱりって何だ?!
 緋勇!・・・・お前には何もつっこむまい・・・」


入ってくるなり失礼な事を言う面々にあきれつつ、俺は瑞希の顔を見やった。


「いつか・・・、話してくれ・・・」

お前の心の負担を軽くできるなら
出来る限りの協力、するからな。


そう思って瑞希を見た。
心なしかその寝顔は微笑んでいるように見えた。


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