小説

□過去話シリアス編
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「お前、一体なんなの?」


怯えたような瞳を僕に向けて、歯の根が合わない口から発せられた冷えた言葉が流れるように僕の耳に届き、やがて余韻を残しながらジワリと身体に染み込んだ。


まるで猫の目の様に細く折れそうな情けない月の光が僕らを青白く照らしている。


彼の真っ青に染まったその顔は、僕の頭上で輝くその月のせいなのか
それとも、薄暗い路上で血溜まりの中に佇む僕のせいなのか、よく分からなかった。



「大丈夫だった?」



僕はやんわりと微笑んで彼に手を差し出す
でも彼はその手を払いのけると、後ずさってしまった。


「っ・・、来るなッ」



叫ぶように
恐怖を目に宿して

それは精一杯の抵抗。



「・・、怪我はない?」



ホラ、だって僕の周りはこんなに血だらけで
むせかえるくらいに錆臭い。



「・・ばッ、けものっ!」

「ー・・・、化け物?」



そう言われてゆっくりと自分の顔に両手をあててみた。

ああ、成る程。
血だらけなのは、僕か。


「お前、なんなんだよっ」


ああ、良かった
彼に怪我はなさそうだ。


「瑞希、お前っ・・何なんだよッ?!」


彼は何か助けを求める様に僕を見た。

僕は何も言えずに、視線を下に逸らす。




「無事でよかった」


結局彼の問いには答えずに、ありきたりな言葉だけを呟き、彼に背を向け歩きだした。


「もう、僕と関わっちゃだめだよ?今日みたいに危険なめにあってしまう」


喉が枯れていてまともな声が出せないのに、ひんやりとした夜の空気の中だと何故かよく通る。


「信じなくてもいいよ、
でも、言わせて?


僕は君を守りたかった
ただ、それだけなんだ」



生暖かい液体が頬を伝って静かに静かに地面へと零れ落ち、不格好で小さな水玉模様が幾つもできた。

一度振り返ってみたが彼の顔は暗がりの闇に紛れていて、その表情は伺えない。

でももう、そんな事はどうでもいいのだ。

僕はどうせもう皆の前に姿を現す事はできないのだから。


鈍く光る琥珀色に染まった自分の瞳。

もうすでに自分の身体は陰の龍の器として覚醒してしまった。

昔の記憶も徐々に蘇っている。



もうすぐ、また、始まるのだ。
あの長い長い総てをかけた闘いが。


だから動き出さなくては

今の大切な者たちを巻き込まないために。



「龍斗・・・否、龍麻と逢わなくちゃ・・」



そろそろ彼も覚醒するころだろうか。

あぁ、


なんという、残酷な巡り合わせだろうか。



「息災で暮らせよ」



記憶の向こう側の、もう一人の自分が口を開いた

どうか無事で、
いつまでもいつまでも


そう強く心の中で念じた時強い風が乱暴に傍らを走り抜けた。



「よう瑞希、元気だったか?」

「ひーさん・・」

「帰るぞ」



「そう、だね・・」



僕は情けなく微笑んで優しく差し出された大きな手を握りしめる。
陽と陰が、求め合うように共鳴した。



「ま、せいぜい頑張ろうぜ相棒」

「うん、またよろしく」




そして
物語は始まった。


誰も知らない終結に向けて。



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多分高校二年生の後半あたりの力が覚醒したあたりの話。

この少し後に師匠に会うのかもしれないw


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