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「此れです、此れ。」
「…え?」
「馬超殿の痛みも此れです。」
背中の張っている部分を強く圧し、趙雲の体を以て教える。
「お前…容赦ないな。」
「…馬超殿には言われたくないです。趙雲様、気を付けて下さいね?」
「痛くなったらコイツが何とかしてくれるぞ。」
うんうんと頷く名無しさんと、当たり前の様に言う馬超。趙雲は意味が分からない。
「名無しさん殿…が?」
「整体の腕は確かです!」
「…馬超殿もして頂いた、と?」
「昨日城に帰る際、気になってしまって…半ば強制的に。だから趙雲様も何時でも言って下さればしますから。…今直ぐでも良い位です。」
「否、今日は用事があるので…。(名無しさん殿にその様な事を頼む等……出来ません。)」
「お時間ある時に声を掛けて下さいね。」
「有難う御座います。」
***
食事が終わると趙雲は城外に出た。馬超も鍛練場に向かい、馬岱は視察中。部屋に戻ったものの、予定のない名無しさんは退屈極まりない。
ただ窓際の椅子に座って、窓の外を見て思いにふける。
趙雲様が休みでなければお手合わせ願っていたのに…。
関羽様の所へ行っても迷惑だろうし…鍛練してるか、劉備様の処よね。
しょっちゅう諸葛亮様に書物を借りに行くのも忍びない…。
こんなに気を遣う事…魏国ではなかった。1人で居る事なんてなかった。皆、私の我が儘いっぱい聞いてくれてたんだなぁ……。
突然寂しさが込み上げてきた。泣きそうになるのを必死に堪えながら、上を向いた。
名無しさんは立ち上がり、寝台の傍に置いてあった小袋を手に取り、再び椅子に戻った。袋には砕けた簪が入っている。
眩しい日射しに照らされながら、雲一つない快晴に目を奪われた。
暫くすると一つの固まった雲がゆっくりと流れてきた。
魏国も、この空と同じ色をしているのかな。
…元譲は、この空を見てるのかな。