番外編
□デート
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何時もと変わらない日常。小鳥の囀りと共に暖かい陽射しが部屋に降り注ぎ、朝を知らせる。
朝食を摂る者、調練を始める者。執務を始める者。皆が皆、忙しなく動き回る中、それでも起きない者も居る。
「従兄上ー!入るよ?」
ドンドンと五月蝿く扉を叩くが返事が無い為、馬岱は勢い良く扉を開いた。
寝台を覗くと眉間に皺を寄せながら布団を抱き枕の様に抱き締め、惜し気も無く寝着をはだけさせている。
女官が見れば大層悦ばしい光景かもしれないが、大の男が男の胸や脚を見た処で嬉しさ等何も無い。
「もうっっ!僕だって暇じゃないんだよ?ねぇ。……ねぇ従兄上ってばっっ!!」
頭から枕を抜き取り、思い切りぶつけるが、全くの無反応である。これが戦場であれば、寝首を欠かれるのではないかと心配さえする。が、今はそんな余裕は無い。
「僕にもね、用があるんだよっ!」
抱き締めていた布団を寝台から引っ張り落とすと、自然と馬超も寝台から落ちた。
「いっ………てぇ…」
「…起きた?」
馬超を冷たく見下ろしながら訊ねる。
「岱、起こすならもうちょっと優しくだな…」
「そんな柔な方法で、起きた試しないよね?」
「………。」
「僕はもう行くよ?」
「……朝食は?」
頭を抱えながら床の上で胡座をかく馬超。
「僕はもぉ食べたよ。」
やっと起き上がり欠伸をしつつも闕腋袍に着替えて馬岱を見ると、褂を羽織って幾分めかし込んでいる。
「出掛けるのか?」
「うん、ちょっとね。」
「…誰と?」
一際低い声で訊ねた馬超。
「内緒!野暮な事聞かないでよ。」
馬岱は口元に人指し指をあて、笑顔でサラリとかわす。一瞬ピクリと馬超の眉が上がったが、それ以上追求はしなかった。
「…気を付けて行って来いよ?」
「当然!ちゃぁんと日没迄には帰って来るからね!」
「阿呆か、当たり前だ!」
怒りをぶつけ様にも、掌をヒラヒラと手を振って部屋を出て行った。
「……クソッ。」
「お待たせっ!僕から誘っておいてごめんね。…待った?」
「大丈夫ですよ、書物を読んでいましたし。」
優しく笑みを溢す姿を見て、馬岱はホッと息を漏らした。
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