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「あ…!何か書物を貸して頂けないかと思いまして。」

「其れなら幾らでも。…退屈でしょう?」

「ハハハ…。何をすれば良いのか…。一日中部屋に居ても毎日退屈で。」

「だから書物でも…と言う訳ですか。」

「はい、本当なら体を動かしたい所ですが…。父が規制しているでしょう?」

「…ご存知でしたか。」


 父の考える事は大体分かる、と苦笑いを浮かべる。


「えぇ。父は此処へ来る際、槍を持たせてくれなかったので…。」

「確かに…。同盟を記す竹簡には、"戦場に起つ事"と"鍛練をする事"は禁止と記載されていました。」

「でしょう?その癖自分の剣は差し出して…。何処迄縛るおつもりか…。」

「戦場に起つ事と違い、鍛練する事は…知られなければ良いだけかと。」

「…え?」


 きょとんとした表情で諸葛亮を見るが、羽扇片手に微笑んでいる。


「劉備殿は申し上げたのでしょう?"城内は自由に動き回って構わない"と。」

「は…はい、ですが…。」

「此処は蜀の地。貴女の父君まで鍛練をしている等、報告が届く筈がありません。」

「諸葛亮様っっ!」


 余りの嬉しさに席から立ち上がる。


諸葛亮様直々に鍛練のお許しが出るなんて!


「…一つお聞きしておきたいのですが、馬岱殿とはお知り合いで…?」

「いえ?此処に来て初めてお会いしましたが。」


「そうですか…先日貴女が蜀へ来られた日、視察そっち退けで戻って来られたので、てっきり…。」

「…彼等一族に、私を知らぬ者はいないでしょう……。」

「…不躾な質問でしたね…。」

「いえ、構いません。私の……私の命ごときで済まされるなら…。あの日馬超様に殺されても構わなかった位です。」


 沈んだ名無しさんの表情を、諸葛亮は見逃さなかった。


「当日の事は殿から伺っています。貴女は殺される為に武を磨き、生きて来た訳ではないでしょう?」

「……"守る"為に。」

「ならば守る為に今は生き、励むべきかと。」

「有難う御座います。流石諸葛亮様ですね。少し…楽になりました。」

「私で良ければ何時でも。書物も自由に持ち帰って頂いて構いませんよ。」

「では先程見つけた…此れをお借りしたいのですが。」

「えぇ、どうぞ。」

「あ…今の話、内緒にしてて下さいね?」

「分かりました。」
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