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 諦めた様子で溜め息を吐く名無しさんに気付き、少し慌てた劉備と趙雲に、気を使わせまいと気丈に微笑む。


折角劉備様が誘ってくれたんだもの……。



 城を出て朝市に向かう5人の前で幼い子供が転けた。


「大丈…」

「大丈夫?」


 劉備が声を掛け終わるよりも早く、馬岱の手を振りほどき、名無しさんが駆け寄っていた。


 子供を起こし、しゃがみ込むと、今にも泣きそうになる子供をギュッと抱き締めた。
 それから両頬にそっと手をやり、額を当てる。


「大丈夫、大丈夫。痛くない、痛くないよ。笑ってごらん?」


 名無しさんが優しく微笑むと、子供が笑った。


「偉いね、泣かなかったね。ご褒美に此れをあげる。」


 そう言うと、駆け寄った際地面に置いた花を手に取り、子供に渡す。


「わぁ、きれいな花!おねぇちゃん、いいの?」

「うん、泣かなかったご褒美だよ。」

「ありがとう!」


 手を振り、笑いながら駆けて行った。

 愛しそうに手を振り見つめる名無しさんはハッとした。


「…あぁぁー!!りゅ…劉備様、ごめんなさい、劉備様に頂いた花をっ私ったら……」


阿呆か、こいつは…。素が出てるぞ。


 ずっと無言で、呆然と見ていた馬超が溜め息を漏らす。


 劉備は挙動不審に慌てる名無しさんの肩に手をやると微笑んだ。


「良いのだ、子供は喜んでいたであろう?まだ中庭に沢山ある。」

「あ…有難う御座います。」

「良いものを見られたのだ。その方が価値がある。」

「そんな…」


 後ろでは、趙雲と馬岱が微笑ましく笑っていた。


「そなたの様な人物が蜀に来てくれた事、嬉しく思うぞ。」

「私が幼い頃にしてもらった記憶と同じ事をしただけです。私は…嬉しかったから……。」


 少し恥ずかしそうに微笑んだ。


よく城を脱け出しては、彼が探しに来てくれた。走って転ぶと、何時も慌てて駆け寄ってくれた。


泣き出す私を落ち着かせる様に抱き締め、両頬に手を添えて、額を当てる。


 "大丈夫、大丈夫だ。痛くない、もう痛くないぞ。ほら、笑ってみろ?"


そう言って笑ってくれるの。私にはいっぱい笑ってくれた。


「あー…僕もギュッてして欲しいなぁ。」

「…!!」
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