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「名無しさん殿、お早う御座います。準備は整いましたか?」

「はい、今行きます。」


 開かれた扉から見せた名無しさんの姿は、翠色の服に桃色の簪を付けている。
 劉備が贈った服に、馬超が差した簪。今迄自ら身に付けようとしなかった色を。


「昨日の緑色とは少し違う色ですね。良くお似合いです。」

「有難う御座います。…今日はお休みですか?」

「えぇ、良くお分かりになりましたね?」

「何時もより、落ち着いた服の色…というか。」

「今日は城を出ようと思いまして。」

「だからなんですね、良く似合ってらっしゃいます。」


 微笑み、歩を進める名無しさんの隣を趙雲が歩く。


 今日は外出するにはもってこいと言わんばかりの天気の良さだ。温かい日射しと、心地良い風が吹く。


 廊下から見える風景が日に日に変化する。少しずつ花が散り、移り変わる季節を教え始める。


「趙雲殿!」

「馬超殿、お早う御座います。」

「お早う御座います。」

「おぅ…。」



 タイミング良く部屋から出てきた馬超に、趙雲と名無しさんが合流した。


 何時も通り頭を下げ何時も通りの笑顔を見せる名無しさんと、昨日の自分の失態を思い出し、ぎこちない馬超。


 チラリと名無しさんを見るが、特に変化はない。


何だ…1人狼狽えて馬鹿みたいじゃないか。慣れてんのか?慣れてんだな。……岱が居るもんな。


「…馬超殿?」


 違和感を覚えた名無しさんが声を掛けると、馬超の肩が跳ね上がった。


「な…何だ?」


 冷静を装うが他所他所しい。名無しさんがじっと馬超を見つめる。


「……まだ痛みますか?」


何だ、それか。


「否、全く問題ない。」

「そうですか、良かった。」


 視線を外し、安心した様ホッと息を吐く。


「馬超殿、何処か怪我でもされたんですか?」


 不安そうな趙雲が訊ねるが、手合わせの際に痛めたとは言えない。


「否…ちょっとな。」


 そう返事をする馬超を後目に、名無しさんは趙雲の背中に回り、触り始める。


「名無しさん殿!?」


 驚いて趙雲が首だけ振り向くと、悲痛な声を上げる。


「痛っっ!痛いですっ名無しさん殿!?」
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