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「俺はっ!騎乗攻撃が得意なんだっっ!」
鍛練場中に聞こえる様な大声が響く。
「む…馬超よ、見苦しいぞ。」
馬超と手合わせをしていた関羽が包まずに言い放つ。
「馬が…愛馬が居ればっ…」
「本日何度目の手合わせだったか…」
呆れた様に関羽が言うが、馬超の耳には聞こえていない。
「いざ、もう一本っ!!」
「…大事な事を、お忘れではないか?」
馬超を制止する様に手を前に出し、溜め息混じりに言う。
「何を…ですか?」
「何時もは、馬岱の役目だったか…。もう昼を回っている様だが?」
「…は?」
「可愛い姫君は、食事をとられたであろうか?」
「……あ。」
忘れていた…。関羽殿との手合わせに夢中で、まだ昼食をとっていない。
朝は趙雲、昼と夜は馬岱が名無しさんを迎えに行く。昨晩から馬岱は視察の為、城には居ない。
先に食堂で食べている可能性もある。趙雲殿も城を出ているし、岱も視察中。俺と食べる位なら、部屋で食べている可能性もある。否、後者の考えが一番ピンとくる。
然し…もしまだ食べていなければ?随分と待たせていた事になる。
「考え込む時間があるならば、先に向かえば良かろう?」
関羽の後押しを受け、手合わせの礼を述べてから、早足で名無しさんの部屋へと向かう。
コンコン
コンコン
全く返事がない。
「おい、居るのか?」
……。
やはり返事がない。
恐る恐る扉を開けると、部屋の奥にある窓際の椅子に座る名無しさんの姿があった。
「居るなら返事位しろよ。」
そう言って近付いた馬超が名無しさんの傍へ寄ると、窓に凭れる様に身体を傾け、膝に書物を広げたまま眠る姿があった。うっすらと涙を浮かべ、余り良い夢を見ている様子ではない。
窓の渕には砕けた簪の入った小袋が置いてある。
馬超の胸が締め付けられた。
もう少し早く岱の話を聞いていたら。こいつにこんな思いをさせずに済んだのに…。
否、俺が暴走したせいだ。岱の話は関係ない…。
申し訳なさそうに目頭の涙を服の裾で拭うと、名無しさんは目を覚ました。
「……アレ?馬超殿?」
「返事がなかったから居るのか確認の為に、部屋に入っただけだぞ。」
「それは…構いませんが…。」