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「でも…名無しさん殿に危険は及びませんか?」


 1人険しい表情で名無しさんを心配する趙雲。


「武器を振り回す訳でもなく、悪さをする訳でもなく。只唄って、舞っているだけだとか。……という訳だ。まぁ、俺も詳しく分からないからな。」


 椅子を後ろに倒しながら他人事の様に言う。真剣な面持ちをした3人の前で、沈黙を破ったのは名無しさんだった。


「……私もその中に混ざっても良いのでしょうか?」

「「「はぁ!?」」」

「お…おぅ、珍しいな、趙雲殿が声を上げるのは。」

「あ…つい…。で、名無しさん殿とその…彼女達は、知り合いなのですか?」

「…蜀の城下で堂々と唄って舞う方々と知り合いの可能性は……何とも言えませんね。」


 馬超は卓から体を乗り出した。


「よし、行くぞ!俺、着替えてくるなっ!」

「あのっ…ちょ……」


 趙雲の制止も構わず部屋を飛び出した。


「従兄上ってば…。僕はこのまま此処で待たせて貰うよ?」

「はい、構いません。趙雲様はどうされますか?」

「私も一旦…部屋に戻ります。直ぐ戻りますね。」


 そう言って部屋を出た。


「……あ。」

「…何?どうしたの?」


 優雅にお茶の続きを楽しむ馬岱が訊ねると、少し頬を赤らめた名無しさんが馬岱を見つめている。


「…私も、着替えねばなりません。」

「そう。どうぞ?」

「……馬岱殿?」

「見ないよ。脱がすのは好きだけど、覗きとか、そういう趣味は無いからね、僕。」


……。まぁ…どうせ一度見られたんだし。


「…馬岱殿に戴いた服を着ても…宜しいですか?」

「……!?何もしかして橙色の!?」


 卓から立ち上がって嬉しそうに名無しさんに駆け寄る。


「…はい、舞うには、素敵ですよね。この服。」

「……でもちゃんと上、羽織って行ってね?そのままで出掛けられるのは、僕、嫌だよ。」

「とっ当然ですっ!着替えますから、あっち戻って下さいっっ」

「はいはい。……ありがと。」


 馬岱は嬉しそうに再びお茶を飲み始めた。


 橙色の軽装に着替える。宴で舞う為に馬岱が用意した、舞姫用の服に。綺麗に結い上げた髪には馬超に貰った桃色の簪を挿した。


 勿論、上から1枚羽織って、女官の様に長い裾の服を。


「うん、何か、どっから見ても女官ーって感じ。」
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