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 舞姫達の指示通り、言われていた城下の離れに向かうと、其処はとても美しい場所だった。春も終わり、もう梅雨が来る季節だというのに花が咲き乱れ、沢山の小鳥が囀ずっている。


 目の前には川が流れ、水は透き通っている。陽射しが照り付け、とても心地好い空間が其処にはひろがっていた。


「とても素晴らしい場所ですね!」


 初めて見る蜀のこの場所の景色に、名無しさんが嬉しそうにはしゃぐ。先程の黒いオーラは何処に閉まったのか…。


 馬から降りた趙雲と馬岱は、辺りの様子を伺いながら名無しさんを囲っている。


「名無しさん殿、油断なさらないで下さい。何処に潜んでいるか分からないのですから…。」

「趙雲殿は堅過ぎるぞ!目の前は川だ、これはもう水遊ぶするしか…」
「従兄上は黙ってて。」

「………。」


 遊びたい気持ちを全面に出した馬超は馬岱に冷たくあしらわれて、少し大人しくなった。頭を掻きながら足元の小石を蹴る。


「だいたいこんな処に潜んでる訳ないだろ。居るならもっとこう…山奥とかだな…」

「もし賊?が山奥で騒いでるだけなら、諸葛亮殿がわざわざ出向かせますか?」

「う…。」


 完全に拗ねた馬超が川沿いに座り込み、服の裾を捲って足で水遊びをしている。


「趙雲様、だから賊じゃないですってば…」

「あ、あぁ、そうでしたね…。でもまだ確信は出来ません。」




 ガサッッ



 草むらを掻き分ける音と共に、白藍色の服を着た若い青年が出て来た。
 服の色からして、蜀の者ではない。薄い色だが、緑か青かと言えば青だ。民が着れる様な物では到底程遠い。その上、名無しさんよりも少し若い印象がある。警戒した趙雲と馬岱が名無しさんの前に立って腕を伸ばして下がらせたが、名無しさんが叫んだ。


「龍檸っ!」

「名無しさん様ーっっ!」


 嬉々として駆け寄る龍檸に、躊躇いもなく趙雲と馬岱を振り切って龍檸に飛び蹴りを腹に入れた。勿論趙雲達が立ち入る隙もなかった。


「い…痛い、名無しさん様。」

「当然でしょ、龍檸。何の騒ぎを起こしてるの、全く騒々しい!(しかもちょっと鬱陶しい。)」

「懐かし過ぎて泣きそうだ…」
「たかがひと月でしょ?」


 龍檸の眉がピクリと動く。


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