□15
2ページ/9ページ


「その "たかが" ひと月に兄者がどれ程名無しさん様を心配されている事かっ!名無しさん様には分からないよ…」

「…此処に来る事は、知っていた筈よ?」

「でも俺達は、夜…将軍の婚儀の後だと聞いていた。」

「何故、私が其処迄残らなければならないの?」


 今迄にない冷笑を浮かべた名無しさんが地面にしゃがみ込んだままの龍檸を見下ろして言った。


「…名無しさん様が兄者に嘘を吐くなんて……。」

「優しい嘘じゃない。」

「兄者は1人、泣いていた。それ程に信用されていなかったのか、と。」


 龍檸は地に生える草を力いっぱい握り締め、瞳に涙を浮かべる。その握り締めた手を優しく取り、名無しさんが触れる。


 龍檸が顔を上げると、何とも言えない顔をした名無しさんが見つめていた。


「信用してないんじゃないの。信頼しているからこそ、よ。だって彼、世話役として付いて来る気だったじゃない。」

「当然だ!兄者は名無しさん様の1番の世話役なのだからっ!!」


 睨む様に名無しさんを見る龍檸。その様子を間近に見ていた馬岱が溜め息を吐きながら口を挟む。


「女官を差し置いて、世話役に男を連れて来る姫が何処に居るって?」

「名無しさん様に決まっているだろうっ!」


 名無しさんの傍で腕を組み、龍檸を見下ろしていた馬岱が驚いた表情を見せた。先程から見る龍檸の余りにデカい態度が、馬岱は引っ掛かっていた。


曹家や夏侯家の人間じゃないのに馴れ馴れし過ぎる。兄は世話役だと言ったし、その兄より立場が上だと思えない…。さて、どういった関係か。


 腕を組んだまま龍檸を見下ろし凝視したままの馬岱に、名無しさんは慌てて龍檸に怒鳴る。


「馬岱殿にっ…言葉遣いを気を付けなさいっ!」


 名無しさんが力を入れて龍檸の頭を小突くと、馬岱が気にしなくて良いよ、と苦笑いを浮かべる。


「龍檸、私は私情に貴方達兄弟を捲き込みたくないの。私以外の者が、此処へ来る必要は無い。」

「あ、あの……名無しさん殿?」


 事情が飲み込めない趙雲が名無しさんに声を掛けた。


「あ…あぁ、ごめんなさい。彼、魏に居た頃私の世話役をしてくれていた人の弟で、龍檸と言います。」

「彼の兄上が、名無しさん殿の世話役を?」


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ