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「さて、報告を聞きましょうか。何か収穫はありましたか?」
涼し気に羽扇を扇ぎながら諸葛亮は訊ねた。
「狡いよねぇ、諸葛亮様は。従兄上を煽っておきながら、僕や趙雲殿迄同行する様に仕向けるんだから。」
「情報は大事ですからね。同盟国とは言え、何時同盟が解消されるか分かりませんから。それに今は何より…」
「姜維、でしょ。……会ったよ、彼の伝達係に。龍檸って言うんだって。僕よりも幼かった。15、6位…かな。」
羽扇で扇ぎながらも片手で椅子を指して座る様に勧める。大人しく椅子に掛けた馬岱は付け加えた。
「密書を、読んでいる可能性も…ある。何とも言えないけど。」
「おや、それは困りましたね。」
「そんなに困っている様に見えないけど。」
丁度女官がお茶を運んで来て、馬岱は茶器に手を伸ばした。器をくるくると回し、紋を眺めていた。
「計画を、早めましょうか。」
「知らないよ、名無しさんの信用を失っても。」
「元より私は彼女からの信用等求めてはいませんよ。只、姜維と言う人材を手に入れたいのです。……例え、どんな手を使っても。」
「………。」
諸葛亮から姜維への密書は、一旦天水の姜維の母親が住む邸へと預けられる。それから母親の様子を見に行く任務を任せられている龍檸が預かり、姜維へと渡される。それは、姜維の母親から息子へ当てた "手紙" として。勿論、密書とは別に魏国への名無しさんの報告書も持たせる。
諸葛亮は姜維と言う人材を見つけた時、一つの案を考えた。今回の同盟の話を持ち出し、曹家の人間を人質として入蜀させる。其処から姜維の情報を入手する、と言う案だった。
然しそれ以上の収穫は名無しさんが入蜀し、姜維との繋がりがあった事。姜維からの返事は、何時も名無しさんを気遣う文面である事。ならば、幾分簡単である。
「さて。ではまた近い内に馬岱殿には天水に赴いて頂きましょうか。」
「はぁい。…でも今回こそは、出発する数日前には声掛けてよね。準備もあるし。」
次の魏国への報告書には、名無しさんが日々感情を表に出さずに過ごしていると伝えて魏内部の人間、則ち話し相手を迎える事を提案する。自身の元で軍略を学び、知識を与える条件を付けて呼び寄せる。
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