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「で?名無しさんの話とは何だ?」


 夏侯惇の部屋に連れて行かれた曹操は、軍事よりも真剣な面持ちで早く話せと言わんばかりに詰め寄る。


「孟徳…普段もそれ位真剣な顔で執務を出来んか?」

「からかうな。名無しさんが最優先に決まっておるだろう?」

「そんなに好きか?」

「誰の血を受け継いでいると思う?最愛の女が生んだ、最愛の娘だ。今が乱世でなければ名無しさんを跡継ぎにしたい程だ。」


 呆れた様子で溜め息を漏らす夏侯惇に、今更そんな事を言うなと言わんばかりの視線を投げ掛ける。


「女では跡継ぎになれん。お前も…それ位分かるだろ?」

「だからこそ、名無しさんには幸せになってもらわんとな。あいつが望むなら、城でも権力でも、何でもやる。」

「あいつが欲しいのは、お前の愛情だろう?」

「む…。だが最近少し避けられている様なのだが…。」


 曹操は髭を梳きながら不思議で仕方ない、と呟いた。


「…悪循環だからな。」

「何が悪循環なのだ?」

「お前が名無しさんばかり可愛がるからあの側室がお怒りだ。」

「どの側室だ?何故怒る必要がある?」

「長女の、だ。自分の娘よりも、女官の生んだ子供ばかりを可愛がるからだろう?」

「名無しさんが可愛いのだから…仕方あるまい。」


 名無しさんの笑顔を思い出し、ニヤケ顔になる曹操。それを見た夏侯惇は大きな溜め息を吐く。


「可愛い名無しさんを可愛いがるのと、何の関係があるのだ!?」

「分かったから…。そんなに可愛い可愛い連呼せんでいい。取り敢えず、あいつら親子を後宮に下げろ。此処に置くべきではない。」

「あの女には名無しさんの世話を任せているのだ、それは出来ない。」

「何故だ!?」

「名無しさんが寂しい思いをするであろう?」

「…阿呆か。女の嫉妬程怖いものはないぞ。あの親子だけ下げて名無しさんを城に残すか、名無しさんだけを下げるか、どちらか選べ。」

「阿呆は貴様だ、夏侯惇よ!後宮に下げる事は許さんぞ!」

「ならば俺等は、名無しさんに武芸を学ばせる。」


 一歩も譲らない曹操に夏侯惇は今朝方夏侯淵と話していた本題を、何時もより低い声で淡々と言い放った。


「正気か!?儂の娘に傷を付ける気か!………夏侯惇よ、今俺"等"と言ったか?」


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