□7
1ページ/9ページ


 久し振りの城下町。高鳴る胸を抑えながら、入念に服を選ぶ。曹操の娘とばれない様、女官の様な淑やかな服を選び、腕輪と首輪を付けた。


 普段なら腕輪は武器を持つ時、手腕から抜け落ちて邪魔になる。首輪はジャラジャラと五月蝿く、視界に入ると邪魔になる。その為付けたりはしないが、名無しさんなりの精一杯のお洒落だ。



「名無しさん、いるか?準備が出来ているならそろそ…」


 声を掛けた夏侯惇が言葉を言い終える前に扉を開けた。夏侯惇の後ろには、笑顔の姜維が顔を覗かせている。


「ね、早く行こっ!」

「…気が早いな」

「だってお父様ってば城下町には連れて行ってくれないから!」

「そりゃぁ……(寵愛している愛娘を外に出す筈ないだろう。悪い虫が付いたらどうするんだ。)」


 言い掛けそうになった夏侯惇が口篭った。


「…ん?」

「城から脱け出さない代わりに武術を学んだんだろ?」

「脱け出すのと連れて行って貰うのは別だよー。」


 少し寂しそうに言う名無しさんの頭を撫でなから、夏侯惇が "行くぞ" と促した。


「だからこうやって内緒で連れてってやるんだろ?」

「うん、元譲大好きっ!あ、勿論姜維も好きだよ!」

「えっ…はい、有難う御座いますっっ」


 屈託の無い笑顔を姜維に向けるが、他の将と違って "好き" 等言われ慣れていない為、頬を染めて照れてしまう。


***


「うっわぁー!久し振りだぁっ!」

「はしゃぐなはしゃぐな…」


 突然走り出そうとする名無しさんの首根っこを掴んで抑制し、露店商ではなく、しっかりとした店構えのある店へと引っ張って行く。


「あ、耳飾りっ!可愛ぃーっ」

「お前…簪って言ってなかったか?」
「でもでもっ!これ良いー」


 はしゃぐ名無しさんの隣で姜維が一緒に見る。耳飾りを見ている名無しさんに盛大な溜め息を吐く夏侯惇の姿等、名無しさんの視界に入ってはいない。


「名無しさん様に似合いそうですね。」

「やっぱりこっちにしようかなぁ…」

「止めとけ。穴、空いてないだろ。わざわざ此れを選ぶ必要はない。あっちの…穴空けなくていいヤツにしろ。」

「えー…元譲だって空けてる癖に。」

「親の形見だ。しかも1つ。女なら両方…2つも空けるんだぞ?」

「分かってるよぅ!ね、姜維は空けてるの?」

「いえ、私はっ…」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ