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久し振りの城下町。高鳴る胸を抑えながら、入念に服を選ぶ。曹操の娘とばれない様、女官の様な淑やかな服を選び、腕輪と首輪を付けた。
普段なら腕輪は武器を持つ時、手腕から抜け落ちて邪魔になる。首輪はジャラジャラと五月蝿く、視界に入ると邪魔になる。その為付けたりはしないが、名無しさんなりの精一杯のお洒落だ。
「名無しさん、いるか?準備が出来ているならそろそ…」
声を掛けた夏侯惇が言葉を言い終える前に扉を開けた。夏侯惇の後ろには、笑顔の姜維が顔を覗かせている。
「ね、早く行こっ!」
「…気が早いな」
「だってお父様ってば城下町には連れて行ってくれないから!」
「そりゃぁ……(寵愛している愛娘を外に出す筈ないだろう。悪い虫が付いたらどうするんだ。)」
言い掛けそうになった夏侯惇が口篭った。
「…ん?」
「城から脱け出さない代わりに武術を学んだんだろ?」
「脱け出すのと連れて行って貰うのは別だよー。」
少し寂しそうに言う名無しさんの頭を撫でなから、夏侯惇が "行くぞ" と促した。
「だからこうやって内緒で連れてってやるんだろ?」
「うん、元譲大好きっ!あ、勿論姜維も好きだよ!」
「えっ…はい、有難う御座いますっっ」
屈託の無い笑顔を姜維に向けるが、他の将と違って "好き" 等言われ慣れていない為、頬を染めて照れてしまう。
***
「うっわぁー!久し振りだぁっ!」
「はしゃぐなはしゃぐな…」
突然走り出そうとする名無しさんの首根っこを掴んで抑制し、露店商ではなく、しっかりとした店構えのある店へと引っ張って行く。
「あ、耳飾りっ!可愛ぃーっ」
「お前…簪って言ってなかったか?」
「でもでもっ!これ良いー」
はしゃぐ名無しさんの隣で姜維が一緒に見る。耳飾りを見ている名無しさんに盛大な溜め息を吐く夏侯惇の姿等、名無しさんの視界に入ってはいない。
「名無しさん様に似合いそうですね。」
「やっぱりこっちにしようかなぁ…」
「止めとけ。穴、空いてないだろ。わざわざ此れを選ぶ必要はない。あっちの…穴空けなくていいヤツにしろ。」
「えー…元譲だって空けてる癖に。」
「親の形見だ。しかも1つ。女なら両方…2つも空けるんだぞ?」
「分かってるよぅ!ね、姜維は空けてるの?」
「いえ、私はっ…」