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 首をフルフルと左右に振る。わざわざ痛い思いをして迄空ける必要がないからだ。


「決めた、今日は耳飾りにするっ!簪は今度元譲に買って貰うっ!」

「俺か、俺が支払うのか?…俺は財布じゃないぞ?」

「今日はちゃんと自分で買うもん。どれにしようかなー」


 ワクワクと嬉しそうに選び始めた。目が輝いているので、もう止め様がない。何でもかんでも欲しがる訳ではなく、1つだけを決めて選び、それを満足そうに見ている姿が何とも愛らしい。


「 "姫様" って、欲しい物は何でも手に入る様な立場なのに…自分で選んで、自分で買っちゃうんですね。しかも1つだけ、って。」


 後ろから不思議そうに名無しさんを見つめながら夏侯惇に話し掛ける。


「可愛いモンだろ?欲も無くて。簪は今度って言ったのも、また城を脱け出す口実だ。」

「…名無しさん様らしい。」


 2人で笑いながらも、しっかりと名無しさんの警護をする。突然魅入られたかの様に名無しさんが小粒の黒曜石の耳飾りを手にした。


「コレ、くださいっ!」


 嬉しそうに店主に差し出してお金を支払う。石は高価な物で、中々子供が買える様な代物ではないが、名無しさんが平然と金を差し出す姿に店主は驚きながらもお金を受け取った。


 夏侯惇はその様子を見て、眉間に皺を寄せた。


「何っつー色気の無いものを…。花形とか垂れているのとか…色々あるだろ。しかも黒……黒曜石か?」

「いいの、コレが良かったの!」


元譲が付けてる青玉に似てたから、何て言えないし…。


「店主、ちょっと待て!…おい、名無しさん、せめてコレにしろ、な?」


 差し出されたのは同じ形の月長石。


「…白い石?」


 今度は逆に名無しさんが眉間に皺を寄せた。


「月長石はな、モテるぞ。男が寄ってくるぞ。そして色気が増すぞ。…なぁ、店主!?」


 縋る様に、然し同意しろと言わんばかりに鬼気迫る勢いで店主を睨み付ける。


「お、お嬢さん…そこの旦那の言う通りだ。その石の方が良く似合ってるしな!」

「そう?じゃあこれにする!」


 店主に乗せられてご機嫌にお買い上げ。そして安心した様に溜め息を漏らした夏侯惇と店主。


「悪かったな。」


 立ち去る間際、店主に少しの金を支払った。口裏合わせの報酬に。


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