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「…すまんな。」
「うぅん、私の方こそごめんね、仕事増やしちゃって…。」
夏侯惇の執務室へ向かいながら会話を交す。
「否、今朝は本当に助かった。あれだけの竹簡を一晩で処理出来るとは…驚いたぞ。」
「だって見てきたから。元譲の仕事っぷり。お父様が迷惑掛けてきたから…」
部屋に入ると山積みにされた竹簡が目に入って名無しさんは唖然とした。
「コレ……全部?今朝綺麗に無くなった筈よね?」
「まぁ…今夜は徹夜だな。」
「じゃあ私も…」
「お前は龍怜の世話だろ?」
「じゃあ今出来る分だけでもっっ」
直ぐに机に使い、紐を解く。内容を素早く見ながら筆を走らせ始めた。
……やはり。内政に向く実力があるな。然し槍の腕も確かだ。
「名無しさん、武を少し控えて内政に携わる気はな」
「ないよ。」
筆を走らせ、夏侯惇の方を見向きもせずに一言で済ませる。
「戦場に出る事はない。それならば内」
「私は元譲が困っているから手伝うだけ。……あの文官達と仕事をするなんて……考えただけでも吐き気がする。」
「…そうか。」
「うん。元譲が困ってるなら助ける。でも私は、争いの種を自ら蒔いたりしない。」
また子桓と…距離が空くのは嫌だ。昔みたいに仲良くしたいのに…。
悲し気に執務をこなす名無しさんに申し訳なく思い、夏侯惇は席を立った。
「……元譲?」
「傷付ける様な事言って、悪かった。」
そう言って座ったままの名無しさんを屈んで抱き締めると額に口付けた。
「…どれ位、悪いと思ってるの?」
「どれ位……って。」
筆を置いて夏侯惇を真っ直ぐ見つめてくる名無しさんに、少したじろいだ。
「…いっぱい……?」
「そうだな、いっぱいだな。」
「い───っぱい?」
「そうだな。…しつこいぞ。」
「なら、もっと。」
座ったまま両手を差し出し "抱き締めて、口付けて" とせがむ。
「お前は…甘えたい盛りか?」
「龍檸と龍怜見てたら、羨ましくなっちゃった。」
兄弟の仲の良さと、俺の抱擁は同じレベルか……?
そう思いながらも名無しさんを抱き締めた。然し、もう額には口付けを落とさなかった。
「此処には?」
額を指差しながらねだる名無しさんに、夏侯惇は口角を上げた。
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