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「立て。お前が俺に抱き着いて口付けたなら、幾らでもしてやる。幾らでも甘やかしてやる。」
「わ…私から!?」
14年間、皆から抱き締められる事も抱き締める事もしてきた。額に口付けてもらってきた。然し名無しさん自らがした事は一度だって無い。
「…どうした?出来ないのか?」
餓鬼だな、と鼻で笑う夏侯惇。子供扱いされた事がやけに悔しくて、気が付いたら抱き着いていた。
「……で?」
「……届かない。屈んで。」
ほんの少し屈んだ夏侯惇。これでは額にまで届かない。
「い…いぢわる。」
「餓鬼。」
「………。」
頬にそっと左手を添えて、左手の頬に軽く口付けた。
「……軽い口付けだな。」
「はっ初めてだもんっっ!」
顔を真っ赤にした名無しさんが涙目になって夏侯惇を睨む。
「からかい過ぎたな。」
フワリと片腕に抱き上げると、前髪を掻き分けながら何度も額に口付ける。右手を頬に当て、右頬に口付ける。そっと軽く鼻先に口付ける。
「くすぐったい…」
「…満足したか?」
「………もっと。」
「貪欲な奴だな。次は何処に欲しいんだ?」
そっと手を伸ばし、夏侯惇の唇に軽く触れる。
「…孟徳が怒るぞ。」
「じゃあいいや、降りる。」
簡単に諦めてサラリと夏侯惇の腕から降り、再び椅子に座り、竹簡に目を通し始めた。少し残念がった夏侯惇が軽く舌打ちをした。
……チッ、孟徳の名を出したのは、余計な事だった。
「そう言えば、月長石は着けたのか?」
「……あ。忘れてた。ね、今着けてもいい?」
袖口から紙袋に入った耳飾りを取り出す名無しさん。その姿を無言で見つめる夏侯惇。
「何で黙るのよ。」
「俺、痛いって言ったぞ?先に言ってやったんだぞ?」
「大丈夫だって。コレ、直接刺せばいいの?」
「…出来るモンならな。」
既に目を合わせようとしない夏侯惇に、フンッと顔を上げると、勢い良く耳に突き刺した。
「いっ………」
思いの外、耳に穴の空いた感覚に耐えられずに椅子にから降りて耳を押さえながら、地べたにしゃがみ込んだ。
「だから言わんこっちゃない。手、放せ。見せてみろ?」
「元譲の馬鹿ー!ちゃんと教えてよ……」
「だから何度も痛いと言っただろうが。」