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竹簡の処理が終わった頃、龍檸の寝台を見ると、掛布を蹴り飛ばしてぐっすり眠っていた。名無しさんはそっと布団を掛けると、龍怜の様子を覗いた。穏やかな寝息が聞こえ、安心すると温くなった布を濡らした。
「薬湯が効いてる……良かった。」
額に掛かる髪を掻き分けると、濡らした布を宛がった。
「んン……」
急な冷たさに反応したのか龍怜から声が洩れた。
起こしちゃった…!?
心配を余所に、龍怜は無意識に名無しさんの手をギュッと握る。
……心細いよね、いきなりこんな処に連れて来られたら…。
そう思いながら龍怜の手を握り返し、傍にあった椅子に腰を下ろした。
***
名無しさんは何時になったら来るのだろうか。まさかとは思うが、夜通し看病する訳では……
張遼がそんな事を考えている内に夜が更けていった。考えていても仕方がない、と寝台から起き上がり、1枚羽織って部屋を出た。名無しさんの部屋の前に着き、中の様子を確認する様に耳を澄ますが、全くと言っていい程物音がしない。
そっと取っ手に手を掛けて扉を開いた。机の上には小さく灯る明かりが1つだけ灯っているが名無しさんの姿はなく、処理の終わった竹簡だけが無造作に散らばっていた。寝台へと足を運ぶと、張遼は目を丸くした。
何と……!
其処には椅子に座ったまま寝台に凭れ掛かり、スヤスヤと眠る名無しさんの姿があった。龍怜と名無しさんが手を重ねているのが気に入らない様子で口を尖らせた。
深い意味はないだろうと分かってはいる。だが、新参者がこうも簡単に手を握るとは!龍檸は幼いから我慢出来るが、何と言う事だ。
娘を嫁にやる時の父親の気分を噛み締めながらも、羽織っていた上掛けを名無しさんの肩にそっと掛けた。規則的な寝息をたてる名無しさんに、小さく微笑み、龍怜の額に置かれた布に触れる。少し温くなっているのを確認して、水に晒した。
名無しさんが小さい時……似た様な事をしたな。
懐かしい思い出に更けりつつ、手際良く布を替えるとそっと部屋を出た。
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