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その頃着々と宴の準備が進む中、名無しさんだけは眉間に皺を寄せていた。曹操の部屋では曹丕と夏侯惇もおり、宴で着せる衣装を選んでいた。
次々に女官が運んで来る衣装にあぁでもない、こうでもないと言い合っているのは曹操と曹丕。言わば、着せ替え人形状態だ。
「んー…これなら先程の朱の方が」
「父上、名無しさんには藍の方が似合うに決まっている。」
「藍……か。」
ポツリと呟いた夏侯惇の声にピクリと反応を示し、真っ赤になって夏侯惇の方へ振り向いた。その様子を見て夏侯惇は笑う。
「わ、忘れてよ。」
──私は濃藍が似合うと思うな──
──じゃあ次は濃藍で仕立てようか──
──やっぱり駄目!余りに似合っている姿見て、女官達が騒ぐと鬱陶しいから嫌だ!──
先日名無しさんとやり取りをした日の事を思い出した。藍が似合うと言った名無しさんの言葉に、夏侯惇が次に新調する服の色を藍にしようかと言えば、妬きもちとも取れる言葉を放った。
思い出すだけでも口元が緩むのに、目の前では名無しさんが真っ赤になっている所為で余計に笑いを堪えるのに必死だった。曹操達に問われれば面倒臭い。出来れば、胸の内に秘めていたいからだ。
「…元譲の馬鹿。」
「クク……そう拗ねるな。俺は此方の方が似合うと思うぞ。」
言い合う曹親子を後目に、何十とある衣装の中から1枚を名無しさんに差し出した。
「……桃、色?」
「そうだ。……濃藍には良く合うだろ?」
付け加えられた言葉は小さく耳元で囁かれ、先程よりも真っ赤になった名無しさんを見て夏侯惇は腹を抱えて笑った。その声を聞いた2人が何事かと夏侯惇に詰め寄る頃、名無しさんは衣装を持って個室へと逃げ込んだ。
「…惇よ、突然何だ?」
「名無しさんの姿がない、が……?」
「名無しさんは気に入った物が見つかった様で、奥に行ったぞ?」
怪訝な顔をする親子を見て、更に吹き出しそうになるのを堪えた。
「………どう?」
着替えて出て来た名無しさんに対し、感嘆の声が漏れた。
「桃色も…」
「悪くはないな。」
我が子、姉に見惚れる曹操・曹丕に名無しさんは呆れつつも、やっと着せ替え人形の役目を終えてぐったりした様子を見せた。
「おいおい、今からバテて大丈夫か?」
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