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「貴様に相応しい場を後程与えてやる。取り敢えず飲め。」

「ちょ、曹丕殿……」


 曹丕の合図で女官が司馬懿の盃に酒を注いだ。もう逃げられないと判断した、諦めて酒を仰いだ。


 それから間もなくして曹操の合図で舞姫達が中に召された。初めて見る龍檸は頬張りながら目を留めて喜んでいる。然し名無しさんの姿は無い。


「なぁ惇よ。」

「何だ?孟徳。」

「名無しさんは何処へ行った?姿が無いが……」

「準備に、と言っていたが……その内顔を出すんじゃないか?」


 言い終えると同時に注がれた酒を飲み干す。こういった時は余り干渉しない夏侯惇は、母親失格じゃないのかと溜め息を漏らす曹操。その曹操はふと龍怜に目を留めた。食事も進んでいない様に見える。


「龍怜よ、宴は退屈か?」


 不敵に笑う曹操にビクリと肩を震わせた龍怜は、慌てて頭を下げる。


「いえ、その様な事は……」

「そうか?ならもっと楽しめ。緊張する様な場ではないぞ。」

「父上がその様に申されれば、余計緊張するのではないでしょうか?」


 父である曹操と同じ様に笑う曹丕は龍怜を見た。


「親子してそう煽ってやるな。名無しさんが席に着いてからでいいだろう?」


 龍怜の気持ちを察知していた曹親子が、龍怜に進言させようと煽った処で夏侯惇がそれを止めた。その瞬間、下座の入口付近に座っていた副将達がわぁぁっ!と歓声を上げた。


「おっ!やっとお出座しか!」


 嬉しそうに乗り出す曹操の視線の先には、舞姫に混ざりながらも一層光を放つ名無しさんが居た。


「ふぉぉぉっ!名無しさん様だけど、名無しさん様っぽくない!」

「…何だ、それは。」

「普段と雰囲気が違って、大人っぽいと言うか……何て言えばいいんだろ?」


 張遼は龍檸に突っ込みを入れながらうんうんと頷いた。


「あれはな、 "妖艶" と言」
「張遼殿、子供に余りそう言う言葉を教えないで頂きたい……」

「おや?徐晃殿にはそう見えておられなかったか。」

「そそ、そう言う意味ではなく…!」


 真っ赤になって照れる徐晃をからかい遊ぶ張遼。酒が入っている分タチが悪い。


「張遼はもうちょっと自重しろ。」


 舞いから視線を外す事なくその場を諫めた夏侯惇は、やはり酒を飲み続けていた。


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