□nestle
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 『nestle』



 暗闇に浮かぶ月を眺めながら、両手に白い息を吐いた。頭上から止まる事無く雪が降り続いている。

「…随分と遅くなってしまったな。」

 先程よりも馬を走らせ、帰路を急いだ。


 やっと私邸が視界に入る距離迄近付いた頃、門前には見た事のある姿が小さく縮こまって、座ったまま此方を睨んでいた。馬から降りると、怒鳴り声が響いた。

「遅い!こんな時間迄、何処に行っていたんだ。城を出たのは夕刻だろう!?」

「馬超殿は何故……何時から其処に?」

「答えになってない!」

「あっ…はい、執務で使っていた墨が切れてしまって城下へ買い物に。」

 それで馬超殿は何故此処に居るのですか?と問いだけな視線を向ける。

「そんな物、女官に買いに行かせれば良いだろうに……。」

「視察も兼ねて、です。立ち話も寒いですし、取り敢えず中に入りませんか?」

「二刻……」

「え?」

 すっくと立ち上がり、馬超は趙雲の目の前に顔を近付けた。眉間に皺を寄せて、怒っている様に見える。

「子龍が城から出て、今、帰ってくる迄の時間だ!余り……心配させるな。」

 ふわりと趙雲の腰に片手を回し、もう一方の手で頭を撫でた。先程迄とはうって変わり、甘く、それでいて優しい声が耳許で囁かれた。

「ご心配をお掛けしました。」

「そう思うなら、俺に声を掛けて行け。」

「次回からそうします。」

 馬超の子供滲みた駄々に趙雲がクスクスと笑っている。やりきれない思いを沸々と浮かべても、笑う趙雲に向けるだけ無駄だった。その笑顔の前では、馬超は自然と顔が綻んでしまう。

 頭を撫でていた手が頬に触れると、趙雲はピクリと反応した。

「とても冷たくなっていますね、早く中に入って下さい。」

 馬超の手に自身の手を重ねて軽く握る。すると少し照れた様にその手を頬から離して一箇所を指差した。

「……あれ。」

「はい?」

 振り返ると、手が異様に冷たくなっていた理由が分かった。門の隅に、小さい雪だるまが2つ。笑顔で寄り添う様に並んでいる。

「待ってる間に作った。」

「有難う御座います。何だか…私達みたいですね。」

 崩れない様にそっと抱え上げると、嬉しそうに微笑んで、門の中へと運んで行く。

「おい子龍、何処に持って行くんだ?」


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