novel

□救えぬこの手を
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これで何度目だろうか。




僕が自分を取り戻した時 
床に散らばった、
赤く染まった白い羽の上に
君の身体はあった。


また君の身体に傷を刻んでしまった。


抱き上げて腕に抱えた君の重みに、
僕の心は沈みそうになる。
君はいつも僕に信頼の眼差しを向けてくれていた。
そして僕の手を欲していた。
それなのに
僕のこの忌わしい両手は、
もう一人の自分によって
君の身体を切り刻む凶器と化してしまう。

宿命によって魔力を与えられた僕にとって、
この手で君の傷を癒すことは簡単だった。
だから君を壊しては癒しての繰り返し。
このような事をするくらいなら消えてしまおうと何度も思ったけれど、
僕の腕の中で目を覚ました君が




側にいてくれてありがとう




と微笑む度に
僕はこの世界に見えない鎖で縛りつけられてしまう。


君はいつも僕を求めている。
傷つけられたって
穢されたって
むしろその傷を愛おしみ
僕を心から愛してくれた。
君の存在は僕を縛りつけ、
いつしか僕は君を心から愛していた。

けれど
この手は絶対に君を幸せにすることは出来ない。
いつか必ず君は壊れる。
君の
花開くような笑顔が
この世界から消えてしまうことは
絶対に許されない。
君は世界中から愛されるべき人間なのだから


だからもう僕は決めたんだ。
唯一僕がこの手で
君に幸せをあげられる方法、




君の記憶の中から僕の存在を消す




今まで君に何もあげられなくて本当に悪かったと思ってる。
これが僕が、この手が、
君にあげられる
最初で最後の幸せ。
























僕の居ない世界で
大輪の君の笑顔が
咲き誇りますように

















救えぬこの手を


2012.3.20

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