novel
□今あなたに会いに行く
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ー今あなたに会いに行く――
あなたがこの儚い夢のような世界で命の灯を消してからもう5年もたった
私は今でも思う
あの時あなたと一緒に死んでいたらと
命消えゆく間際
あなたと一緒に死ぬと取り乱す私に
あなたは今にも消え入りそうな声と笑顔で
こう言った
「梨紗には生きて欲しい。君はこれからだってたくさんの人に愛される存在になる。
僕が･･･君に与えることが出来なかった『本当の』幸せを見つけて欲しい･･･」
確かにあなたが居なくなってからも
何人もの男の人が私を愛してくれた
あなたよりカッコいい人もいたし
あなたより愛情表現の上手な人だっていた
何より皆心から私を愛してくれた
それでも
私はあなたの言う『本当の』幸せを見つけられなかった
彼らと一緒に居る時でも
あなたの存在が私の後ろに付きまとう
あなたの声が、眼差しが、吐息が、肌の温もりが
細い糸のようなものになって私の心と思考を絡み取る
そして私も無意識に自分からその糸に手を伸ばしている
あなたはずるい
ああ言っておきながら
死んでからもなお私を離さない
そんな私が他人を本気で愛せるはずは無かったのよ
愛そうと思って伸ばした手は
ただ冷たい虚空を掴むだけ
そしていつしか私はあなたの影を追っている
あなたのせいで
他人を傷つけて
私は傷ついて
シアワセ
からかけ離れて行く
ねえ
あの時あなたはあの言葉の最後にこう言ったよね
「･･･でももし、この世で『本当の』幸せを見つけられなくて苦しくなったら･･･僕の元に来ていいよ。僕が必ず君を迎えに行くから･･･」
ねえ
もう良いかな
暗い暗い大海原を一人で揺られるようなこの世から
あなたの元へと羽ばたきたい･･･
そうすればきっと
手を伸ばせばもう虚空ではない
希望を掴めるはずだ
私気がついたんだよ
私にとっての『本当の』幸せは
日渡君、あなたと時を歩むことだったんだよ
あなたが死んでよく分かった
あなたは私に『本当の』幸せを教えてくれたじゃない
窓の外に目をやると
白い羽がはらはらと舞い落ちている
ああ
迎えに来てくれたのね
生きて良かった
あなたを愛し抜いて
『本当の』幸せを見つけて
私は今儚い夢のようなこの世界から
手を離して
目を覚ます
そして
あなたに会いに行く
→あとがき