novel

□新しい夜明け
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近所の神社は
初詣客で賑わっていた

寒空のもと
新しい年の始まりに
胸膨らませる人々の明るい声が響き渡る




クラッドの
容姿の美しさから
2人は境内で注目の的になっていた

そんな気まずい雰囲気の中どちらともなく話かけることはなく
2人は無言で鈴をならす列に並んでいたが
しばらくすると
2人が鈴を鳴らす番になった
参拝の儀礼に従い
手拍子を打ち願いごとする

大助は
ふと気になって
隣のクラッドを見ると
神に祈るその横顔は

どこか少し寂しげだった















「今日は付き合っていただきありがとうございました」
参拝を終えしばらく無言で大助の家に向かい歩き続けていた2人だったが
ふとクラッドは足を止め
大助の方を向いた

「いや、僕は…」

困ったような表情を浮かべる大助にクラッドは優しく微笑みかける

「あなたとお祈り出来て良かったです」

何かを諦めたような
その微笑に
先ほどの彼の寂しい横顔が
大助の脳裏をよぎる

神の前で
彼は何故寂しそうな表情をしたのだろう
決して相容れることのない彼の心を少し覗いてみたいと思った

「あ、あのさ、クラッドは何をお願いしたの?」

「それは…」

さらに曇り始める表情
それは何処か彼の翼主をも思わせる表情だった

「きっと私は結局は何も手に入れられないのです…」「え…?」
「私は神に欲しい物をねだってはいけない悪魔のような存在だ…それでも」

ふっとクラッドは空を仰ぐ
まるで
目線の先には
悪魔のように穢れた存在にも
救いの手を差し伸べる
女神がいるように

クラッドはさっきまでとは違う
柔らかい笑みを浮かべた



「氷狩の呪いにより生まれた私たちと翼主とが、何らかの形で共存出来れば、といつも願うのです」




突き抜けるように真っ青な空から
小鳥の小さな羽根が
2人の元へと舞い降りる

大助が
その羽根に
手を伸ばすと
指と指の狭間から
空に浮かぶ女神が微笑んだように見えた





「きっと大丈夫だよ」
「え…?」
「僕達が願えば、クラッドの願いだって叶う、絶対に」

嘘偽りなどない
大助の確固たる
まっすぐな思い

「共存」は可能だ

そう女神様だって言ってる
きっと、いや絶対に
強く願えば
願いは叶うのだと

















「ありがとう…丹羽大助」












1月1日
新しい年の始まりの日
そんな日に広がる
澄み渡った空のもと

まるで闇夜のように
全てを拒絶し
決して相容れなかった2人の心に
一筋の夜明けの光が差し込んだ






→あとがき&懺悔
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