novel

□Alcoholic
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ー酔った彼女もたまにはいいかもしれないな・・・−



Alcoholic


「おーろーしーてーひわたりくんのばかー」
「駄目だ」

皆が寝静まった夜の東野町に
二人の美男美女の影が伸びる

今宵は月が明るい
「いとをかし」
と平安歌人なら詠みそうなほどの美しさであったが
今の二人はそれどころではない


ーどうして彼女はこんなに酔ったんだ?−


付き合いだしてからかなりの時が経つし
20歳になってからは二人で食事に出かけると
必ずといってアルコールの入った飲み物を飲んでいたが嗜む程度だった

それが
今日の彼女はいつもと違っていた

度の強い酒を片手に
来月結婚するという双子の姉の愚痴ばかりこぼしていた
「梨紅ったら、来月結婚するっていうのに全然覚悟がなってないのよ〜丹羽君も丹羽君でなんだかしゃっきりしてないし、もう見てられないわ」

だんだん焦点が合わなくなってきた彼女が更に酒を注文しようとするので
慌ててそれを制しようしたが
「今日ぐらい日ごろの愚痴言わせてよ」
と、強い口調で迫られ何も言えず
結局彼女が酒に溺れて眠りにつくまで
延々と愚痴を聞かされた

閉店近くになっても起きない彼女をおぶって店を出て
自分の家に向かう最中に
彼女が目を覚まし
今に至るというところだ

「りくのばかー」

目を覚ましてからの梨紗といったら
居酒屋であれだけ愚痴を吐き続けたのにも関わらず
依然変わらぬペースで不満を垂れ流し続けている
怜も途中までは彼女の言葉に
「そうだな」
などと相槌を入れていたのだが
家に着くころにはもはや面倒になり
適当にあしらっていた



程なくして怜の家についた

依然としてくだを巻く梨紗をベッドに座らせ
そのまま横にならせようとした時
梨紗は強い力で怜の腕をひっぱった

「?!」
「ひわたりくん」
梨紗はおもむろに立ちあがった
「さっきからわたしのはなしぜんぜんきいてなかったでしょ」

あれだけ酔い潰れておきながら
自分を背負う人間の反応はしっかり伺っていたとは驚きだった
と同時に自分を見つめる彼女の瞳が
異様な光を放っていることに一種の焦りをおぼえる

「そ、それは・・・」
「にどとそんななまいきなことできなくしてあげる!!」




己の置かれた状況をやっとのこと理解したときには
怜は梨紗にベッドに押し倒されていた
両の手首を掴む力は
男の怜なら無理に振りほどけないものではなかったが
酔った彼女が全体重を乗せていたので
華奢な彼女からは想像できない強さだった

「おい、梨紗、どうしたんだ?!」
「うるさい」

梨紗は怜の両手を彼の頭上に持ち上げ
自分の片手で押さえつけた
そして空いた方の手でネクタイに手をかけ
そのままするすると解いていく

「ひわたりくんのばか」

そう言いながら梨紗は解いたネクタイで怜の両手首を縛った
酔った彼女の手先はおぼつかなくて
縛りも緩く
いつでも彼女の拘束からは逃れられそうだったが
怜は突然の彼女の豹変ぶりに
半ば為すがままになっていた

彼を縛り終えた梨紗は
とても満足そうな笑みを浮かべていた
そして唇が触れそうな距離まで顔を近づける

「?!」

アルコールのにおいと
香水かそれともシャンプーかの
甘い花の香りが混ざり合って
怜の鼻腔をくすぐる
熱を帯びた吐息と甘い香りに
理性が崩れそうになる

さらに追い打ちをかけるように
梨紗は怜のYシャツのボタンを一つずつ器用に外し始めた

「梨紗、やめるんだ」

さすがにこのままでは色々やばいと思った怜は
ネクタイを緩い拘束を解くため手を動かし始めたが思ってた以上に複雑な構造に苦戦してしまう

「ひわたりくん」
耳元の甘い囁きは彼の理性の崩壊へのスピードを上げていく
彼女は自分の唇を
彼の首筋へと近づけ
そのまま強く吸った

「・・・っ」

理性ではコントロール出来ない快感が体中を駆け巡る

一度顔を上げたかと思えば
彼女は再び首筋へとくちづけを落とす
彼女の細い髪が
体を撫でるのでさえ耐えがたい快感だった




しばらくすると皮膚を吸う力が弱まった
怜はこれをチャンスと思い
既にかなり緩んでいたネクタイを解き
形勢逆転を狙い
自分の上に伸しかかる梨紗を
今度は押し倒した

「梨紗・・・?」

さっきまでの恍惚とした表情は何処にいったのか
目の前にはいつも通りのあどけない彼女の寝顔
起こそうと声をかけたり体を揺すってみるが
どうやら完全に眠ってしまったようだ
既にすやすやと寝息を立てている


−何だったんだ・・・あれは一体・・・−


体には先ほどまでの快感の余韻が続いている
これまで彼女と情を交わしたことがなかったわけではないが
その時とは全く違った
言葉に出来ない感覚が体中を廻る

彼女に一方的に快感を与えられたことに対する男としての屈辱感が無かったわけではなかったが
これはこれで良いかもしれないと思った

ーもう少しで酔った彼女に自分が酔わされるところだった・・・ということか・・・―


「ひわたりくん」

名前を呼ばれてふと彼女を見ると
彼女は相変わらず気持ちよさそうに眠っていた
きっと自分との夢でも見ているのだろう

そっと布団をかけてやると

「だいすきだよ〜」

と寝言を言いつつ布団を引き寄せ丸くなった

そんな彼女を見ていると
自然と笑みがこぼれてくる


ー酔った彼女もたまにはいいかもしれないな・・・−






























翌日職場に出勤した怜が
上司から首筋のキスマークで数日間からかわれたのは
後の数少ない彼の笑い話である



→あとがき
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