novel

□彼女に向ける想いの名を、まだ知らない
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彼女の目に
僕が映ることは無い

彼女の大きな瞳には
いつも黒い翼を纏ったあいつだけしか映し出されない

いつも彼女の側にいるのはあいつで
彼女が心から必要としているのもあいつ


「あなたは彼女に執着しているのですよ」

もう一人の自分に言われた言葉

執着?この僕が?
あり得ない
一族の運命として
何にも執着しないことを教えられてきた
だから僕は今まで
大切なものなど何も持たず
何事にも執着することなく生きてきた
それらはすべて失った時に
哀しみしか生まないのだから



彼女の身に危機が迫った時
何故か僕は無意識に手を伸ばしてしまう
けれどもいつも彼女を助けるのは
身近にいるあいつ
そして彼女が求めるのも他ならぬあいつだ
僕が伸ばした手は
虚空を掴むばかり
けれどもそんなことどうだって良いはずだろう
僕には守るものなどない
彼女がどうなったって知ったことではないはずなのに
体中を駆け巡る虚無感は
一体何なんだ


今日も彼女はあいつの側にいる
生き生きとした笑顔を浮かべて
小鳥の囀りのように語る
そんな君から僕は目が離せなくて
1秒でもいいからその笑顔を僕に向けてほしくて
1秒でもいいからその純粋な瞳に
穢れた僕を映し出して欲しいと思った

何故そう思うのかは分からない
でもそれを求めて
また今日も僕は虚空に向かって
手を伸ばしてしまう

−この『感覚』は・・・?−


彼女に向ける想いの名を、まだ知らない

title by 空橙

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