novel

□初恋
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「梨紗!この段ボールの中整理して!」
「はーい」

一家揃っての久しぶりの休日ということで
原田家では大掃除が行われていた。
双子の姉の梨紅から手渡された段ボール箱には
大きなよれよれの字で、
『りさのたからもの』
と書かれている。
「うわ〜何が入ってるのかな」
段ボールを開けると、
懐かしい匂いと共に
昔梨紗が大切にしていた人形やおもちゃたちが顔を覗かせた。
そんな中
青いリボンで巻かれた一枚の画用紙が梨紗の目を引き付けた。

「何だろう・・・これ・・・」

するするとリボンを解くと、
そこには満面の笑みを浮かべる少女。

「これは・・・」








初恋





「今日は梨紗の好きなハンバーグよ」
「やった〜お母さん大好き」

梨紅と梨紗が5歳になった頃、
梨紅は父親の仕事の関係で海外にいってしまい
梨紗は日本で母親と二人っきりで過ごしていた。
幼稚園が終わり
迎えに来てくれた母親の手に引かれて
家までの坂道を歩いていく時間が
大好きだった。
それは大好きな母親と一緒にいられるからなのであるが、
実はもう一つ、誰にも言えない秘密の理由があった。

―きょうもあのおことのこいるかな?―

家までの坂道の途中には、大きな洋館があった。
そのバルコニーで
梨紗と同じくらいの少年が
いつも椅子に腰かけ絵を描いていた。
梨紗はその洋館の前を通る時は
いつもバルコニーを見上げた。
キャンバスに向かう少年の真剣な表情は
とてもかっこよかったし、
目が合った時折見せる
柔らかい微笑みに
どことなく魅かれていた。

―あ、きょうもいる!!―

いつもと変わらず黙々と絵を描き続ける少年。

本当は立ち止まって話しかけてみたいと何度も思った。
でもどこか恥ずかしい気持ちがあって、
いつも後ろ髪を引かれる思いで
母親に手を引かれていくのであった。
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