novel

□Bitter×Sweet
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今日はバレンタインデー
女の子が好きな男の子に
甘いチョコレートと
気持ちを渡す日

大好きなダークさんのために作ったチョコレートのラッピングに私が選んだのは




真青なリボンだった






Bitter×Sweet









「ダークさんにチョコレート渡せなかったなぁ・・・」

青のリボンで可愛くラッピングした白い箱を胸に
肩を落とす私の側で


それは残念だったね


と、クスッと笑う少年は
ただのクラスメイトから
いつしか
ダークさんに会いに来た時には
決まって一緒に帰る存在になっていた

今日はダークさんにチョコレート渡すために一生懸命お洒落して
何日も前から苦手なお料理の練習もした


全てはダークさんのために

いや、
ダークさんのためだと
言い聞かせた

私はダークさんが好きなはずなのに
大好きな人に贈るチョコレートを作りながら

頭に思い浮かぶのは
不思議なことに
今私の隣を歩くこのクラスメイトだった



ある夜
ダークさんに会うために美術館に忍び込んだのに
結局ダークさんに会えなくて
一人寂しく帰ろうとしたら
彼と偶然出会った

それから私たちはダークさんの盗みがある日は決まって一緒に帰ることになった
最初は気まずくて正直嫌だった
でも、二人で暖かい缶コーヒーを飲みながら
暗い夜道を歩いて帰る機会が増えるごとに
何だか彼の側にいることが心地良く思えた
それからは
彼の仕事の話合いが長引く時でも
美術館の側で彼を待ち
二人で一緒に帰った
会話なんてほんの少ししかない
まして喋るのはほとんど私で
彼は隣で聞いているだけ
季節は次第に冬へと変わり
夜道は底冷えするような寒さであるはずなのに
この人の隣にいる時だけは
ぬるま湯に包まれているような
温かな気分になれるのだ





今日は風が冷たいな




いつもはめったに自分から話しを切り出さない彼が今日はやけに饒舌だ
さっきから何かと話しかけてくる

「そうだね」

ちらっと隣の彼を見上げる
冷たい夜風に靡く
細く青い髪と
綺麗な澄んだ瞳に
私の手の中にある
白い箱に結ばれた
青いリボンが重なる



「あのさ」
私が足を止めると
彼も私の半歩先で立ち止まり
私の方に顔を向ける

「これ」
ダークさんに渡すつもりだったチョコレートをぐいっと彼の胸に押しつける
瞳と同じ色のリボンが白いワイシャツの上で揺れる


僕に?


困ったような
でもちょっぴり照れたような顔をする彼
そんな表情は普段なら絶対見られないから
何だか可愛く思えたけれど
そう思ってしまう自分が悔しくて・・・


「か、勘違いしないで!これは大好きなダークさんのために作ってきたけど、渡せなかったし、捨てちゃうのはもったいないから日渡君にあげるの!」

そうよ
私がチョコレートをあげるのは
本当に好きな人だけになんだもん
だからそのチョコレートは本来ならダークさんにあげるはずだったんだから

そりゃ確かに
私、心のどこかで
今日も日渡君と帰ること
楽しみにしちゃってたかもしれないけどさ


食べていい?

「どうぞ」

ダークさんへの想いを込めて
甘く甘く仕上げてみたから
絶対美味しいに決まってる



にが・・・いやほろ苦くて大人な味だね・・・


まさかと思い
彼に一つもらって食べてみると
ほろ苦いを超えた苦さだった
だけど
ダークさんにあげなくて良かったと思うよりも
チョコレートを食べる彼の
優しい表情が
堪らなくかっこいいと思ってしまった



美味しかったよ、ありがとう



初めてみる彼の微笑み
リボンと同じ色した瞳を細めて
柔らかく微笑みかける

悔しいけれど
その表情は
ダークさんでも世界中の誰でも
絶対に敵わないと思った








「ダ、ダークさんに感謝しなさいよ
本当は日渡君にはあげるつもりなかったんだから!」

頬が熱を帯びてくるのを見られまいと
まくしたてる私に
彼はきょとんとした表情になる
あーあ
私可愛くないな
どうもこの人の前では素直になれない
それでも
私は
あの笑顔が見たくて
これからも
この人の側に居たい
と思った


照れる顔を隠すために
早歩きで進みだした私を
決して追い越すことなく
半歩後ろくらいの位置を保ちながらついてきてくれる彼






街灯に照らし出された
今にも重なり合いそうな二つの影を
月は優しく見守っていた









2012.2.14

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