novel

□私の背にも翼があったなら君の傍に飛んで行くよ
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―私、日渡君が―










好きなの















本当はずっと前から貴方だって分かってた
ダークさんばかりを見ていたはずの私の瞳に
白い影が映し出されるようになってから
私はダークさんを見る「ふり」をしながら
貴方を見ていた
ダークさんを呼ぶ「ふり」をして
心の中では貴方の名前を呼んでいた


貴方を求めていたの


私は無意識に貴方を求める自分が不思議で
そして許せなくて
何度も何度も
気づいてしまったこの想いを
消してしまいたいと願った
けれど
そんな願い叶うはずなくて

いつからだろうか
貴方がもうただのクラスメートで無くなってしまったのは
ダークさんに会いに行く「ふり」をして
貴方に会いに行っていた
夜空の下、二人で他愛も無い会話を交わしながら並んで帰る
貴方の前でなら何でも話せたし
普段以上に子供で居られた
辛いことがあれば大きな声をあげて泣いたし
嬉しいことがあれば大きな声をあげて笑った
貴方と共有する時間
それが私にとって一番の幸せだった

けれど
どんなに日を重ねったって
会話を重ねたって
私たちの影が重なることは無かった
貴方の深い海のような瞳に
私が映し出されることは無くて
どんなに私の話に笑ってくれたって
瞳にはいつも哀しさをたたえていた
貴方は
心の何処かで
私が貴方の心に入り込むことを拒絶していた
貴方の白い影に触れることは許されず
私はずっともどかしかったけれど
それは他でも無く
貴方が心から望んだ距離だった



そんな貴方だからか
いつも先に私に触れるのはダークさんだった
けれど
私はちゃんと分かってた
私の身に危険が迫った時には
必ず貴方も手を伸ばしてくれていることを
そしてその手が虚空を掴むことを
その度に貴方の哀しい瞳が
一層深く哀しみに揺れていることも
私はその手に触れたいと何度も思った
ダークさんに助けてもらいながら
こんなことを思うなんて良くないことぐらい分かってる
でも
それでも私は
貴方が一生懸命に伸ばすその手に
この身体を預けたかった
貴方のその寂しげな瞳に私を映して欲しかった
貴方が望むこの距離を
少しでも縮めたかったの













「待って!!」









やっと貴方に触れることが出来たのに
やっと貴方の瞳に映ることが出来たのに
貴方はまた私を拒絶しようと空に飛び立とうとするから
私は思わず貴方の身体に抱きついた
背中を流れる血で服が汚れることなんてどうでも良かった
むしろ貴方と痛みを共有したかった

「私、本当はなんとなく分かってた。いつも助けてくれるのは日渡君なんじゃないかって」

いつも気付かないふりして騙してた
心の底で芽生えた貴方への想い
どう頑張ったって
私にはそれを摘み取ることは出来なかった
むしろそれは私の中でどんどん大きくなっていって
貴方に伝えたいこの気持ち
拒絶されたって構わない
貴方のその哀しい瞳に
ほんの少しでも
温もりが宿ってくれるなら




「私、日渡君が好きなの」





























最後の言葉は貴方にちゃんと届いたのだろうか
貴方の羽ばたく音で
今度は私の言葉が
虚空を彷徨っているのかもしれない
これが貴方がいつも感じていた寂しさなのだろうか
冷え切った空気の流れる空に手を伸ばし
舞い落ちる白い羽を手に取ると
不思議とさっきまで貴方の身体から感じていた温もりが甦ってきた

やっぱり私は貴方が好き
空を彷徨う私のこの想いを
今すぐ貴方の元へと飛んで行って
届けたい




私の背にも翼があったなら君の傍に飛んで行くよ
−この想いを貴方に捧ぐため−




title by空橙
2012.2.25

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