novel

□St.white
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今日は3月14日。
ホワイトデー。
男の子から女の子にバレンタインデーのお返しと日ごろの愛が送られる特別な日。




そんな日だから今日の校内は
色とりどりの包装紙を手に握り
照れた表情の男の子と
そんな男の子に負けず劣らず
頬を紅く染める女の子がたくさん見られた。
私の双子の姉とて例外でなく・・・。



さて
校内がいつもと違って色めいているというのに
この男は
日渡君は
全くいつもと変わらない。
休み時間になって教室内が賑やかになろうとも
この人は相変わらず自分の席で静かに本を読み続けている。
バレンタインの時には彼の机の周りには
女の子たちの群れが出来ていたのだが
今日は誰一人いない。
なんでも、バレンタインのチョコは誰からも受け取らなかったそうで
その日の放課後
彼のファンの何名かが教室で泣いているのを私は目撃した。

ということは
あの日私が彼に押しつけたチョコ、
それが唯一彼が受け取ったチョコということ・・・なのかしら。

そんなことを考えていると
ふと彼の蒼い双眸が私を捉えた。
その瞬間胸が高鳴る感覚を覚え
私は思わず彼の視線から逃れるように教室から離れた。

あの日から何となく彼を目で追ってる。
目が合う度に同じような感覚を覚え
いちいち頬が紅潮するのが分かる。

まるで「恋」のよう…

そんなはず無い。
だって私はまだダークさんが好きなんだもの。
まず日渡君はタイプじゃないし・・・。
でもあの日私のチョコだけ半ば強引だったけど受け取ってくれたってことは
期待しちゃっていいのかしら・・・。
やだ、私ったら
あの日以来ダークさんのこと考えようとしても
結局はいつも日渡君のことばっかり考えてる。

最近ダークさんに会えてないからなあ…
そうよ、私が日渡君のことばっかり考えてしまうのはそのせいよ。
ただ日渡君が何となく私の近くにいてくれるっていうだけで、
本当はダークさんのことが
好きなんだもん。
ダークさんのことが・・・




























放課後の教室は
昼間の騒がしさがうそだったかのように
静かだ。
ちょっと寂しい気はするけれど
窓から差し込む夕日の暖かさと
この教室の落ち着いた感じが私は心地良くて
日直の仕事をするこの時間が好きだった。


結局何にも無かったなあ…


なんて黒板に書かれた文字を黒板消しで消しつつ考えてしまう。
本当は彼からなんかお返しが貰えるんじゃないかって期待してた。
でも今日1日特に何も無くて・・・。
私ったら本当どうかしてる、馬鹿みたい。
ほら、やっぱり彼にとったら何でも無いんだって。
諦めなきゃね・・・
って諦める?そんな私は最初から日渡君のことなんてなんとも・・・。




「遅くまで御苦労さま」





この声は・・・と思い後ろを振り返ると、
教室の後ろの入り口に
さっきからずっと私の頭の中で私を悩ませ続けていた張本人が現れた。
全く予期していなかった展開に
私の思考はパニック状態になってしまい、


「な、んで・・・?」


これがようやく私の口から出た言葉。
明らかな動揺を隠すことが出来なかったことが恥ずかしくて、
私は彼を視界に入れまいと
黒板の方に向き直った。


「忘れ物をしてしまってね」

「ふ〜ん」


いつもと同じ態度を装っても
心臓の鼓動は体中に響き渡る。

ほら、ただ忘れ物取りに来ただけで
私に会いに来たわけじゃないんだって。
分かってるのに、
なんで少しショックな自分がいるんだろう・・・





「原田さん、これホバレンタインデーのお返し」


そう言った声は私のすぐ後ろから聞こえた。
私がパニックに陥っているうちに
彼はいつの間にか私の背後に立っていたのだ。

そして彼は優しい手つきで
私の髪に触れた。

全く予期せぬ展開に私は思考が完全に停止してしまい、
彼の方に振り向くことは出来なかった。
たださっきよりも激しくて
破裂してしまいそうな心臓の音が
彼に聞こえないようにと祈るばかり。


「白いリボン、君に似合うと思って」


凛とした声が耳を撫でる。
もともと結ってあった私の髪に
リボンを結ぶ彼の手の感触は
とっても優しくて暖かかった。


「じゃ、また明日」


教室に長く伸びる
重なり合う二つの影が
ゆっくりと分かれて行く。
教室前方の扉へと私に背を向けて歩きだす彼を私は何も言えずに見つめていた。
何が起こったのか分からなかった。
まるで夢のようで。
でも、これだけは言わなくちゃいけない。
いつもなかなか貴方に言えない言葉…


「日渡君」


教室の扉に手を掛けていた彼の動きが止まり
ゆっくりとこちらに顔を向ける。
この言葉だけはちゃんと貴方の目を見て言わなきゃ。


「ありがとう」


本当はダークさんの待ち伏せの後の帰り道は
暗くて、寒くて、怖かった。
でもある日から貴方と一緒に帰るようになって
いつからかその時間がすごく好きになってた。
ずっと前から感謝しているはずなのに、
なかなか素直になれなくて、
ずっと貴方に伝えられなかった言葉。


「どういたしまして」


そう言って柔らかく微笑む彼の表情は
夕陽に溶けて行きそうなくらい
どこか儚くて、でも優しくて
不覚にもこの笑顔は世界で一番だと思ってしまった。



























彼が居なくなった教室で
彼にもらったリボンに触れると、
そこにはまだ先ほどの彼の手の温もりがあるように感じられた。
あの時、
私たちの影が離れる時
本当は寂しかった。
もう少しこの距離で居たいと思った。
そして離れてしまった今、
その想いが切なく体中を駆け巡り
心を締め付ける。
でも苦しくはなくて
むしろ甘酸っぱいとでも言うべきか、
この気持ちは他でもない・・・




―私、日渡君が好き・・・―






St.white




2012.3.14
2012.7.15 加筆修正

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