novel

□0回目のキス
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「そろそろ帰らないか?やっぱりこういう尾行みたいなことは・・・」
「いいの!」


晴天広がる休日の夕暮れ時。
東野町唯一の大型テーマパーク、アズマノジョイランドは近郊の家族連れや恋人達で賑わっていた。 

どう見ても周りのカップル達と同様に恋人達に見えるこの美少年と美少女―日渡怜と原田梨紗。
実は二人は「お付き合い」している関係ではない。一応ただの「クラスメイト」という間柄だ。確かに2人きりで話すことは多いけれども・・・それは追いかけていた人物が同じだからであって、別に互いに対して特別な感情など抱いていない・・・というのか当の本人達の言い分でありかつ共通認識である。
そんな2人がデートスポットの定番であるこのアズマノジョイランドにいるなんてクラスメイトの他の人間が知ったら驚かずには居られないだろう。


「今日は、絶対丹羽君と梨紅のデートをちゃーんと最後まで見届けるんだから!!」


「丹羽君」とは怜と梨紗のクラスメイトの一人、丹羽大助である。そして「梨紅」と呼ばれた少女は2人のクラスメイトであり、かつ梨紗の双子の姉である。こちらの大助と梨紅は正真正銘のカップルだ。
梨紗がこの二人のデートを見届けようとしているのには訳があった。


それは昨日の原田家でのこと。


「えー!!梨紅、丹羽君とまだキスもしてないの?!」
「ちょっと、梨紗声大きいわよ」

普段は姉である梨紅の方がしっかりしているのだが、こういう色恋沙汰になると妹の梨紗の方が敏感だった。いや、二人の年齢を考えればむしろ梨紅が鈍感過ぎるというか・・・。

「い、いいじゃない。別にキスなんてしなくても。2人で居ればそれで楽しいんだし」

照れた頬を隠すようにベッドに顔を埋める梨紅に、梨紗はそれは問題発言と言わんばかりに喰い付く。

「だめだめ!!だって、丹羽君と梨紅、付き合ってもう少しで1年じゃない?愛し合ってる者同士なら自然とキスしたくなるものなのよ」
「そんなこと・・・」

白馬の王子様を夢見る少女。梨紗は昔からそんな子だ。
彼氏の合格基準は厳しいけど、愛とか恋とかを御伽噺のように純粋な美しいものとして信じて止まない。
そして彼女はダークという永遠の存在を只管愛した。その想いが叶うことは無かったけれども、彼女はダークが消えてからも彼の存在と思い出を心の奥深くに宝物として仕舞い込まれている。 

「丹羽君も丹羽君よ。男ならダークさんみたいに自分からキスしなきゃ。梨紅だってそう思ってるんでしょ?」

それまでベッドの側にある椅子に腰かけていた梨紗は立ちあがり、姉の隣に寝転がった。

「そ、そ、そんなこと思ってないわよ!!第一丹羽君はそんな人じゃないでしょ!!」

大助と言えば世に言う草食系男子。
クラス全体の共通認識だ。

「そうだけどー。でも梨紅だって丹羽君にキスされたら嬉しいでしょ?」
「そ・・・そりゃあ、嬉しくないわけ無いじゃない・・・・・・」

更に熱を上げる頬を冷まそうと梨紅は梨紗に背を向けるように体勢を変えた。
恋愛沙汰になると梨紗に全く頭の上がらない梨紅。とは言っても梨紗はまだ誰とも付き合ったことは無く、恋愛経験で言えば梨紅の方が上なのだが・・・。

「明日デートなんでしょ?明日丹羽君に『キスしよ?』って言ってみなさいよ」
「な、な、ばっ、!!」

想像もしてなかった言葉に驚いて梨紗の方を振り返ると、彼女は悪魔のように顔をニヤつかせて笑っていた。

「ちょっとっ!!梨紗っ!!あんた何考えてんのよ!!」
「いいじゃない!!遊園地なんて絶好のチャンスだと思わない?最後に二人で観覧車に乗れば、そういう雰囲気に自然となって、丹羽君からキスしてくれるわよ」
「梨紗!!」





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