novel

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拍手小説ー第三弾
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雨は
私の心を憂鬱にさせるのに、
今日突然降り出した雨は
いつもと違っていた。











「あ、雨…」


ー今日は降水確率10%
梅雨の晴れ間となるでしょうー

そうテレビの中のお姉さんは言っていたのに。
ここ最近毎日のように雨続きで久しぶりに晴れると聞いたから嬉しくてつい傘を持って来なかった私は、
成す術もなく、
ただ冷たい雨に打たれるしかなかった。


連日の雨があと少しで乾くというところで、火照った地面にまた恵みの雨が降り注ぐ。
アスファルトの窪みに出来た水溜まりは新しい模様を描き出そうとしていた。



(早く帰らなきゃ、制服がしわになっちゃう…)


家に向かって走り出そうと深く息を吸い込むと土や草木の、雨独特の匂いが胸に広がった。
こういうの嫌いじゃない。むしろ季節の移ろいを感じるのは好き。
ただ冷たい雨に1人で打たれていると、
どこか虚しく惨めな気持ちになる。



「風邪ひくよ?」



1人だと思っていた空間に自分のとは違う、凛として澄んだ声が割り込んできた。

先程まで自分の身体に打ち付けられていた雨の感覚が突然消えたことを不思議に思い見上げると、
そこには私を被う傘、
そして深いブルーの瞳。


「良いわよ。私家すぐそこだから。走って帰るわ」

本当は家まで走ってもあと10分はかかる。
私の体力の無さを考えればそれ以上だ。
それなのに私は嘘をついた。
世にいう相合い傘をしてる姿を彼のファンにでも見られた日にはどうなることか。

いや、
それ以上に
彼の好意を素直に受け取れない自分が馬鹿らしかった。
黒い翼の人の前ではいつでも素直で居られたのに。
今目の前にいる彼の前ではいつも素直じゃない私。意地っ張り。
そんな私なのに彼はいつも優しくしてくれる。


「じゃあこの傘は君にあげるよ。また明日…」


彼はそう言うと持っていた傘を私に押し付け、
降り頻る雨の中を走って行った。
ふと孤独を感じそうな時いつも現れる彼。そして彼は私の変わりに孤独を背負って去っていく。
その寂しい背中を何度見送っただろうか。
そして今日も。




私は傘を打つ優しい雨音に包まれて
ふと彼の名を口に出してみた。

空を見上げると、
街を覆っていた厚ぼったい雲の隙間から
一筋の光が射し込み
私の心を照らしていた。






ーーーーー

梅雨を意識して。
あえて名前は出さず。ブルーの瞳ってワードは出しちゃったけど(笑)

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