novel

□永遠と引き換えに
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「私、ダークさんが好きよ」

俺に愛を教えてくれた少女、
原田梨紗。

彼女は相変わらず俺を
好き
だと言う。
けれど、俺は気が付いていた。
いつからか俺を見つめる彼女の瞳の奥に、
アイツが映し出されていたことを。



アイツ、日渡怜と梨紗はただのクラスメートのはずだった。
それが、梨紗が白い翼のことを日渡だと認識して以来、二人の距離は一気に縮まっていった。

きっと
彼らは互いに愛し合っているのだろう。
でも、俺、という存在が彼らの想いを繋がることを阻止している。
梨紗は日渡を想いながらも、
俺に愛しいと言うことを止められなかった。
日渡からしたら俺は憎き存在だろう。
否、日渡だけでは無い。きっと梨紗にとっても・・・。
俺という存在が梨紗の想いを自由にさせない。
強く拒絶の言葉を吐いても、
梨紗と俺に絡みついた見えない糸は切れることは無かった。

俺はどこかで彼らが羨ましかったのかもしれない。
彼らの関係は互いに互いを守りたい、
その強い一心だけで成り立っていた。
永遠の時間が約束されない人間にとって、
そんな想いなど硝子の様に繊細なはずなのに、
彼らはそれに強く依存していた。
無限の時間を生きることが出来、人間には無い魔力を操る俺にとって、そんなものなど一瞬で握りつぶすことが出来るのに、
そんな彼らの関係がとても羨ましかった。

―その人のために何かしたい、失いたくない、守りたい。
それが、人を愛する、ということなのよ―

無限の時間を生きられないからこそ、人間は本当の意味で命を懸けて大切なものを守ろうとする。
日渡は自分の寿命を縮めると知りながらも、白い翼で梨紗を守ろうとし、
梨紗はそうやって自分ばかり犠牲にする日渡を守りたい、とはっきりと俺に言ったこともあった。
想い人を守りたい、
そんな御伽噺に出てきそうな美しい言葉なんて、
呪いという穢れた存在たる俺には似つかわしくない。
そして、
命を懸けて誰かを守るということは
永遠の時を生きる俺には絶対に出来ない、叶わないことなのだ。



「・・・でねー、日渡君ったら・・・」

今日も俺の目の前で梨紗は楽しそうに日渡の話をしている。
たとえ梨紗の前から俺が姿を消したとしても、きっと二人は本当の意味で報われることは無いのだろう。
梨紗の記憶の中に「俺」という存在がある限り、きっと真に結ばれることは難しい。梨紗にとって俺の存在は其処まで深いものになってしまっている。
彼女のために「俺」という存在を記憶から消すことも悩んだが、それは出来なかった。
俺は卑怯だ。限られた時を生きるしかない人間の幸せに嫉妬し、自分の勝手な欲望から穢そうとしている。
梨紗には幸せになって欲しい、
そう何度も言ったけれど、そんなのただの綺麗事だ。
本当は、
永遠の時の中で生きるしかない弱い俺を、
本気で愛そうとしてくれた梨紗を離したくないのだ。

「ダークさん?」

永遠の時間なんていらない。
ただ一秒だけでいいから、
人間と同じように
命を懸けて目の前の彼女を守りたいと思った。






 永遠と引き換えに


2012.8.8
thank you for サクヤ様

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