さん

□雪解け水
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【雪解け水】

一面の銀世界に
ポタリ ポタリと
流れ落ちた其れは
君の命の証でした

四肢から溢れる
温かな液体すら
身を凍えさせるだけで
重い身体を緩慢な
動きで動かす様は
もう長くはないと
分かっています

触れた部分が
熱く、そして痛い
還りたいと涙した所で
どうにも成らない事は
理解しているのだけど
置いてきた彼の人が
脳裏に鮮明に写るから

嗚呼、どうして

還ると約束したのに
雪解けの頃に戻ると
確かに伝えたのに

行きて還らぬ
戦火の脅威は
あまりにも残酷で

雪解け水は全てを
染めあげてしまった

雪が溶け、春になり
彼の人の元に
還ったのは鋭利な
刃だけでした



刃、だけでした



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