☆夢の入口☆
□援想
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私はPlastic Treeのドラム、佐藤ケンケンさんに片想いをしている。
だって彼は私の命の恩人なんだもの。
朝の通勤ラッシュの中、痴漢にあった私を助けてくれたのは彼なのだ。
「コラおじさん!さっきから何この子のお尻触ってんだよ?」
そう言って痴漢をあっと言う間に捕まえて、駅員さんに突き出してくれたのだ。
「大丈夫とですか?」
「はい・・・有難うございます」
「そっか、なら良かったとよ。じゃ、俺はこれで」
「あ、あの・・・お礼をしたいのでお名前と連絡先を教えて頂けないでしょうか?」
咄嗟にそう言ったけど、彼は『そんな名乗るような者ではなかとです』とだけ言い残し、また人混みの中へ消えてしまった。
その日から彼のことが頭から離れないの。
そう、、一目惚れ。
そして彼のことを知ったのは、たまたま本屋さんで音楽雑誌を立ち読みしていたら彼の写真があって・・・Plastic Treeというバンドのドラマーさんだということが分かったのだ。
「佐藤・・・ケンケン・・・」
呟いてみたけれど、まさか有名人だったとは・・・
そんなに何回も都合良く会えるワケがないし、どうすればいいんだろ・・・
その雑誌を読み進んでいくと来週シングルを出すらしい。
しかもその新曲のイベントとして握手会があると書かれている。
イベントに行けば佐藤さんに会えるかもしれない!!
普段仕事と家の往復しかしていない私にとって握手会は勿論だが、Plastic Treeという音楽を聴くのも初めてだ。
握手会の整理券を手に入れる為にCDを買い、折角なので曲を聴いてみたら、佐藤さんの叩くドラムは凄くダイナミックで格好良い音で・・・直様世界に引き込まれてしまった。
握手会の番号順に並んで後を振り返ると誰もいなくて、どうやら私が最後みたい。
佐藤さんにきちんとお礼を言いたい。
緊張で張り裂けそうな胸を必死で抑える。
佐藤さんは初めて会った時と同じ、眩しいくらい爽やかな笑顔だった。
やっと会えた喜びで胸がいっぱいになってしまって、涙を堪えるのに必死で、私は彼の顔を直視出来ず俯いていた。
「あれから痴漢にはあってないと?」
俯いていた私に佐藤さんが優しい声をかけながら手を差し出す。
見上げるとにっこり微笑んだ佐藤さんの顔が涙の所為でぼんやりと映った。
「覚えてて・・・」
「覚えとるよ。おい、あれから君のことが頭から離れなくて。何であの時連絡先言わんかったんだろってずっと後悔しとったんよ、、」
真っ赤な顔をしながら下を向いて話す佐藤さん。
私は差し出されたままの冷たくなった佐藤さんの手を握り締めた。
「もう一度改めてお礼をさせて貰えませんか?」
「うん。今度はおいが傍にいるから、もう二度と痴漢にはあわんよ?」
佐藤さんの手にもギュッて力が入って、やっぱり爽やかな笑顔を見せた。
援想
「まさかなまえが握手会に来てくれるとは思わんかったとよー?」
「へへっ、佐藤さんが載っている雑誌を見てこれしかないって思ったんです」
「なまえー、いい加減おいのことはケンケンって呼んでよ」
「うー、、、」
「おいはなまえって呼んでるのにぃ・・・」
(・・・ケンケン?)
(いや、、いざ呼ばれると恥ずかしかーっ!!)
END