銀魂
□あの日あの時あの場所で 新八編
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あの日あの時あの場所で
新八編
姉上と二人きりの生活が始まって幾日かが過ぎた。
もう寺子屋は辞め、今はバイト探しの毎日。
生きていく為には、働いて金を得なければならないのに、年若い姉弟を雇ってくれる所は中々見つからなかった。
特に僕なんかはまだ幼い部類だったから、より困難で。
「それじゃあ新ちゃん、お留守番お願いね。行ってきます」
そう言ってバイトに出掛ける姉を見送るのが嫌だった。置いていかれる気がしたから。この広いだけの、オンボロ屋敷に。
でもあの姉上がそんなことをするはずがないのはわかってた。
唯一の肉親で、いつも厳しいけれど、その分僕を愛してくれているのが伝わってくるから。
自分は淋しいのかもしれない。男のくせに、情けないとは思うけど。
気を紛らわす為に家事を覚えていった。特に料理。
最近、姉上の作る物体Xを無理して食べ続けたせいか、視力が弱くなってきた気がする。
メガネ作んなきゃ。
家事は板に付いてきたものの、経済面は相変わらず厳しかった。やはり自分も働かねば。
そう思い、バイト探しを再開した。
今度は運が良かったみたいだった。急にバイト生が辞めてしまい、人手が足りなくなったらしい喫茶店に雇われた。時給は安いけど、雇ってくれただけでありがたい。
しかしここで、元来の不器用さが力を発揮した。
接客なんかは割とできていたのに、レジ打ちがどうしてもできない。
あまりの出来の悪さに店長もブチ切れたようだった。
それからというもの、店長はミスをする度僕を殴るようになった。
姉上のものとはまるで違う、イラつきを解消するための、ただの暴力。
後退気味の生え際をさらに後退させてやろうかと思ったが、それでクビになってはマズイ。
だから耐えることにした。
出来ない自分も悪いんだ。そう自分に言い聞かせて。