銀魂

□夏の終わりに
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「銀さーん!早く来ないと置いてきますよー!」
「銀ちゃん早く早く〜!」
「わーったわーった、そう急かすなっての。ったくお子さまは元気だなー」

今日は町外れの河川敷で花火大会が開かれる日。江戸で1・2を争う花火職人達が集結し、自身の腕を披露するのだ。
回覧板で回ってきたこの情報に浮き立ったのは子供だけではなく、若い娘はやれ新しい浴衣だかんざしだとはしゃぎ、江戸に店を構える者達は書き入れ時だといきり立った。
十代の少年少女のいる万事屋も例外ではなく。

「いいかぁ神楽。屋台のモンたらふく食うのはいいが、絶対に万事屋の人間だって証拠は残すなよ?請求なんか来ても払える金なんかねーからな。通った後には何も残さない、ブルトーザーのように生きろ」
「アイアイサー!任せるアル!」
「ちょっと何教えてんですか!ただの食い逃げじゃん!立派な犯罪だよ!!」

『屋台荒らし』の異名を取る神楽は、愛犬・定春にまたがり、きらびやかな装飾に彩られた屋台の列へ一目散に駈けて行く。

「…あーあ…行っちゃった…。大体無茶なんですよ。あんなデカイ犬に乗ってて目立つななんて。」
「大丈夫だ。やつらは必ず立派なブルトーザーになって帰ってくるさ」
「だーからそういう問題じゃ…もういいや…。せっかくお祭りに来てんのにツッコミ三昧なんてイヤですからね」

そう言って新八は、立っていた道を逸れ、土手に腰を下ろした。

「なんだ、お前何も食わねーの?」
「さっき自分で言ったでしょ?どこにそんな金があるんですか。それに、祭りで売られてるモンなんてほとんどぼったくりでしょーが!焼そば1パック500円なんてありえないッスよ」

肉なんかほとんど入ってないくせに。
ブツブツ文句を言う新八を、ホントに母ちゃんみてーな奴だな、と思いながら、銀時もその隣に腰を下ろす。

「まぁあれだ、祭りって響きにみんな騙されてつい買っちまうだけだ。持って帰って食うとなぜかそれほど美味いと思わねんだよな、不思議なことに」
「でしょ?だから、今日は花火を楽しもうと思って来たのに、神楽ちゃんてば。せっかく着せてあげた浴衣も、あれじゃあ帰る頃にはボロボロですよ」

そういえば浴衣を着ていたな。髪も結い上げて、赤い玉の付いたかんざしを刺していた気がする。
不器用な新八が綺麗に飾り立ててやったというのに、まったくありがたみの無い奴だなと銀時は心底思った。

「あいつもなー、黙ってりゃ見れる容姿だろうに、あの気性じゃ嫁の貰い手が…アレ?おかしいな。もう一人そんな奴を知ってる気がするぞ」
「そのもう一人からもらった浴衣なんですよ、アレ。お古だけど、神楽ちゃんに似合いそうだったし、喜んでくれると思って。」

実際喜んではいた。着付けが終わり、しばらくは友達に見せるのだとはしゃいでいたが、祭りの会場が近づくにつれて濃くなってゆく香ばしい誘惑には勝てなかったようだ。
普通、あのくらいの年頃になれば食い気より色気へと移行するはずなのだが、彼女からそんな様子は微塵も伺えない。

「ま、そこら辺の背伸びし過ぎたガキよりゃマシだろ。あいつは悪い虫も自分で叩き潰すぞ」
「その心配はしてないですけど…でも、ホントにその気がある人が近寄っても、神楽ちゃん気付かないんじゃないかな。その手のことには鈍感でしょうし」

いつのまにか、まわりには花火見物の人だかりが出来始めていた。皆、光る職人芸を今か今かと待ち続けている。
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