銀魂
□あの日あの時あの場所で 新八編
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この最悪な職場環境に耐えながら1年が過ぎようとしたある日、店にいつもと違う変化があった。
いつもは女の子同士やカップルがほとんどの店内に、白髪の男が一人で入ってきた。頭は白いが老人ではない。たぶん20代だろう。
「…やっぱこっちかな……でもカロリーが……」
勝手に席に座ったかと思うと、メニューを食い入るように見ながらなんかぶつぶつ独り言を言いだした。
カロリーって…太ることでも気にしてるのかな。
和と洋をごっちゃにしたような服装に、珍しい髪色。
妙に気になり、店長によるレジ打ち指導にいつも以上に身が入らない。
…案の定間違えた。
いつも通り殴られる。しかも今日は偉そうな天人にまで馬鹿にされた。
くそ。踏んだり蹴ったりだ。
いつまでこんな生活が続くんだろう。
いいかげん陳腐なイジメにうんざりしていた。
立場の弱い人間にしか強気でいられない連中。こんな腐った奴らがのさばる時代に希望なんて無いんだろうな。
髪を掴まれながら、いつの間にかクセになっていた卑屈な考え方を巡らせていたその時
「オイ」
横に居たはずの店長がぶっ飛んだ。
何が起きたのかと見上げると、立っていたのはあの白髪の男。
妙に気になっていた。理由はわからないけれど、この男に付いて行きたくなった。
失われつつある希望が、光が見えた気がしたから。
最初は後悔することが多かった。やる気が無いわ給料くれないわ糖尿予備軍だわ。今までどんな生活してたんだこの人は。
呆れて物も言えない。
でもこの人から離れるつもりはない。
自分勝手で、普段は突き放すような物言いしかしないけれど、壁にぶちあたった時は必ず手を差し伸べてくれるこの人を、僕は少なからず尊敬している。
だから今日も僕はいつも通り万事屋へ足を運び、雇い主に仕事しろとせっついて、買い込まれた甘いものを隠し、体に良い食事を摂らせる。大食らいの女の子とペットが増えて大変だけど。
この人が倒れたりしないように。
いつも隣を歩けるように。
あの日あの時あの場所で
新しい僕が産声をあげた。
終