過去拍手文
□ドロップ
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***フクナガ視点***
(あ、秋山と直ちゃんじゃん)
仕事の休憩時間に、喫茶店でクリームソーダを飲んでいると、窓越しに通りの向こうを歩いてくる二人が見えた。
秋山は物静かなくせに、なんか目立つ。
服装も地味なくせに、腹が立つほど容姿端麗だ。
直ちゃんは歩いた道に小さな花が咲きそうな雰囲気だし。
変な二人。
秋山は相変わらずポーカーフェイスだったが、直ちゃんに合わせてゆっくり歩いてやっているのがわかる。
直ちゃんはうれしそうに赤い缶を耳元で振っていて、立ち止まった。
きっとあれ、ドロップの缶だ。
どこで手に入れたんだろう、レトロすぎ。
ただのドロップでよくあんなにうれしそうにできるよな。
馬鹿って、すごい。
たぶん、蓋が固いんだ。
ついてこない直ちゃんに振り向いた秋山が、だまって直ちゃんから缶を取り上げて蓋を開けてやっている。
直ちゃんがいつものように花が開いたようにうれしそうに笑うと、秋山も少しだけうれしそうな顔をした。
(ほんとはすっごくうれしいくせに)
クリームソーダをすする。
二人の声はもちろん聞こえないが、だいたい話していることはわかる。
『秋山さんも、いりますか?』
『いや、俺はいい』
秋山がドロップとか、ないでしょ、直ちゃん。
直ちゃんは缶からひとつドロップを振りだすと、うれしそうに口に入れた後、すぐ情けない顔をした。
あ、きっと薄荷だったんだ。
『秋山さ〜ん・・・』
『なに』
『どうしましょう、白っぽかったから、りんご味だと思ったら、薄荷でした』
『苦手なら、出せば』
『でも、もったいないです』
もう口に入れたんだから、がまんして食べなさい、直ちゃん。
ってか、俺だったらあんなことで道端で立ち止まられたら、正直だいぶうざい。
秋山がため息をついた。
あ〜あ、叱られちゃうね、これは。
ま、どうでもいいけど。
そう思ったら、秋山が何か言って、直ちゃんがキョトンとしながら顔を上向けると、秋山がすっと直ちゃんに近づいた。
(はあああああああぁ?!)
秋山はそのまま直ちゃんの口に自分の口を寄せると、何もなかったように離れた。
何の迷いも動揺もない、流れるような動作だったけど・・・・・それは、おまえだけ!
直ちゃんは真っ赤になっている。
『あ、あきやまさん・・・』
『次はちゃんと確認してから食べろよ』
直ちゃんから口移しで取り上げたドロップを舐めながら、ほら、と秋山は直ちゃんを促す。
単純な直ちゃんは、秋山に言われたことをしようと意識をそっちに向けた。
缶から次のドロップを出して、律儀に秋山に見せている。
ん、と秋山が眉を寄せてさらに促すと、直ちゃんはドロップを口に入れて、またうれしそうに笑った。
ほら、行くぞ、と似合わないドロップを舐めながら秋山が歩き出して、二人は見えなくなった。
まだ残っているクリームソーダを押しやる。
(飲めるかーーーー!!)
甘い、甘い!!!!
胸やけがしてもうおなかいっぱいなんですけど!!!
二人の関係に、恋人、というのが加わったのは知っていたけど、あの秋山がどういう風にふるまっているのか、正直あんまりぴんとこなかった。
秋山のやつ、道であんな風だったら、二人きりの時はどうなっちゃってるんですか?!
しかも、いつも通りのポーカーフェイスなのが、なおさらどうかと思うよ!
秋山は直ちゃんにあらゆる意味で甘過ぎる!!
保護者として?恋人として?
どっちでもいいわ!!!
糖分過多で寒気までしてきたんですけど!
しかも、腹が立つことに、秋山は、周りが見えなくなっていて、あんなことをしてるんじゃない。
それは確信できる。
きっと、近くに直ちゃんのことをぽーっと見ていた若い男でもいたに違いない。
直ちゃんを甘やかすこと、牽制、自分の楽しみを全部満たしての行動なんだろう。
直ちゃんといること自体には悩んでいるくせに、と負け惜しみを言いたくなるが、だんだん落ち着いてきた。
直ちゃんが幸せそうだと、自分さえよければいいと思いながらもやっぱりうれしい・・・ような?
ま、いっか。
さ、仕事に戻ろ。
end
2010.05.02