過去拍手文
□寒波
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(原作秋直です)
「…」
ドアを開けた秋山は、迷いのためにしばし言葉を失った。
「秋山さん!」
にっこりしている直の頭にも、肩にも雪がうっすら積もっている。
「大晦日にどうしたんだ」
「?
大晦日だからです!
もうお蕎麦食べちゃいましたか?」
「…いや」
「よかったです!」
秋山は直の後ろに見える吹雪いてきた雪を見て、選択肢がないことを確認した。
「とにかく入って」
直に積もっている雪を払ってやる。
サラサラした黒い髪がギョッとするほど冷たかった。
思わず抱き締めそうになるのをなんとかやり過ごし、直の持っていた荷物を受け取ると部屋に入った。
「あ!こたつ!」
直がうれしそうに言う。
冬に入って、直が部屋に来た時、寒そうにしながら、こたつがあれば秋山さんもあったかいのに、と呟いたのを聞いた秋山は、殺風景な自分の部屋を見渡して、こたつを買った。
買っておいてよかった。
テレビでは盛んに大寒波が来ていると騒いでいた。
…いや、問題はそこじゃない。
秋山は年越し蕎麦の準備をする直を眺めながら、ため息をついた。
今まではどんな場合でも必ず日付が変わる前には直を帰していたのに。
もう一度天気予報を確認する。
交通機関の乱れ、道路の立ち往生、更に激しくなる雪。
部屋から出れば、直を危険にさらすことになる。
秋山は、直に結婚前の女の子が前科者の部屋で一夜を過ごすということを世間がどう見るか、言い聞かせることをあきらめた。
わかったところで、今晩はここで過ごすしかないのだ。
「できました!」
うれしそうな直に促され、二人でこたつに入った。
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