過去拍手文

□りんごとシナモン
1ページ/1ページ

*秋山視点のある休日*


今日もうれしそうに食材とやってきた直に昼ごはんをご馳走になって、
ソファで本を読んでいたはずだった。

気がついたら眠ってしまっていたらしい。
このあまりに気持ちいいぬくもりは、直がかけてくれたらしい毛布のせいだ。

直の幸せのために距離を置こうと思いながら、どうしても突き放しきれない自分に悩みながらも、今この瞬間、幸せに胸が熱くなる。

少しずつ覚醒していく中、そっと直の姿を探す。

部屋中にシナモンの香りが満ちていて、直はキッチンでオーブントースターを覗き込んでいた。

大きな鍋つかみを両手にはめている姿がかわいらしい。
…まぁ、何をしていてもかわいいと思ってしまうわけだが。
自分に内心苦笑しながら伸びをすると、直が優しい目をして振り向いた。

「秋山さん、お昼寝、もう大丈夫ですか?」
「ああ、寝てしまってた。すっきりしたよ。」
「焼きリンゴのおやつを作りました。」

私、シナモンの匂いが大好きです!
とうれしそうに直が言う。

毛布を畳んでソファに座り直していると、直がトタトタとやってきた。

目で、何?と問うと、直は隣に座ると遠慮がちに秋山の肩に顔を寄せる。

「でも、世界中で一番好きなのは、秋山さんの匂いです。」

・・・。
なんて言えばいいかわからない。
天才詐欺師とか言われていたはずなのに。
直は返事を求めていたわけではないらしく、
小さい声で、いい匂い、と呟きながら、目を閉じていた。

また無防備にそんなことを言って、と眉をひそめたくなると同時に、
直が自分のことを好きでいてくれることに幸福が押し寄せて胸が詰まる。

君のことが大切過ぎて、苦しいほどだ。

そばにいると、直からはいつも清らかな甘い匂いがする。
「…俺も、君の匂いが世界で一番好きだ。」
直の髪を一房掬いながら思わず呟くと、
「あ、秋山さん…?!」
と途端に直が赤くなってうろたえだした。

…自分も同じことを言ったくせに。
内心苦笑しながら、直に逃げ道を用意してやる。
「そろそろ焼けるんじゃないのか?」
りんご、と言うと、
そ、そうでした!と直は立ち上がった。

彼女のためだけじゃなかったな、とまた自分を笑う。
あのまま引き寄せて、抱き締めてしまったら、あとは我慢できる気がしない。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ