過去拍手文

□ストール
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仕事を終えて歩いていると、背の高い独特の雰囲気がある男を見かけた。
ひとりで歩道の柵に座っている。
「秋山じゃん!」
俺が近づいていくと、いやな顔をされた。
「フクナガか」
「何やってんの?あれ?直ちゃんは?」
そう言いながら手元をみると、
色鮮やかなストールが見えた。
見たことがある。直ちゃんのだ。

そういえば今日は昼は暖かかったが、夜になって急に冷たい風が吹き出した。
ストールに気づいた俺を見て、秋山は小さな舌打ちとため息をついた。

「ええーーーー!急に寒くなったから迎えにきたとか?」

過保護だよ、過保護すぎるよ、と言うと、

「だまれ」
と言ったあと、
「俺にとっても都合がいいんだよ」
フッとあの黒い笑い方をした。

ちょうどその時、学生の集団が前の店から出てきた。
直ちゃんもいる。
春らしいワンピースが吹き付ける風に見るからに寒そうだ。
ゼミの飲み会か何かなんだろう、何人かの男子学生が、直ちゃんに声をかけるタイミングをうかがっている。
「神崎さん、寒そうだね。よかったら・・・」
そのうちの一人が近づいた時、

「なお」

隣の男が声をかけた。

「秋山さん!!」
直ちゃんがびっくりした顔をして、うれしそうに駆け寄ってくる。
「どうしたんですか?!」
急に冷えてきたから、迎に来たんだ、と言いながら、秋山は直ちゃんの肩にストールをかける。
ありがとうございます、と頬を染めて、直ちゃんは俺にも気づいた。
「フクナガさん!」
うん、さっきからいたけどね。
直ちゃんがさっきまで一緒だった集団に手を振ると、失望を隠せないやつらが何人も見えた。
「いちいちひとりひとり排除するのは面倒だからな」
と秋山が俺にだけ聞こえるようにささやいた。

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