過去拍手文

□目隠し
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ニュースでも見ようかと、何気なくテレビをつけた。

夕方の早い時間、2時間ドラマの再放送らしい画面が映り、秋山ははっとした。

誰かが病院の屋上から飛び降りようとしているシーンだった。

母親と重なって、多少はショックだったが、むしろ直には見せないようにしなければ、という意識が先に立つ。
気付かないふりをしてチャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばそうとしたが、気がついたら視界は塞がれていて、唇には柔らかいものがあたっていた。

自分の目を覆うものに手を重ねる。

直の優しい手のひらが、自分の両目を覆っている。
いつのまにかテレビは消されていて、直は覚えたばかりの拙い口づけを繰り返していた。

直が唇を離した。
手のひらをはがそうとすると、
「まだ、だめです」
と言う。

直は息をのんで秋山の様子を観察していた。
さっきのシーンに気づいただろうか。
秋山には絶対見せたくなかった。
自分の表情も、今は見られてしまうわけにはいかない。
秋山の目の上に置いた手のひらを押しつける。

見えないが、直がどんな表情をしているかはわかる。浅く速い呼吸の音。
直があんなに早く動けるとは思わなかった。
自分が傷つくのを恐れて、必死になっている直への愛しさで、秋山は満たされた。

「積極的だな」

「え?」

「もう一回して」

「?」

「おまえから、キス」

テレビには気づかなかったふりをする。

いつもなら恥ずかしがってしないだろうに、直は、もう一度そっと唇を押しあてた。

直を引き寄せる。
しばらく味わったあとで、顔を離したが、直の手はまだ秋山の視界を塞いでいた。

「この目隠しはいつまでするつもりなんだ」

「まだ、だめです」

「ふーん」

こういう趣味があるのか、というと、趣味??どういう意味ですか?と直が言う。

「今度、教えてやるよ」

秋山の口調に意味はわからないながら、不穏なものを感じた直が少しひるんだ。

そっと手のひらをはがす。

「直」

直は表情を見られることを恐れて俯いている。
秋山はそのまま直の少し乱れた髪を丁寧に指で梳いた。

もう一度抱きしめ直す。

「秋山さん、大好きです」
直が力を抜いて、そう囁くまで、秋山はずっとそうしていた。

2010.04.15

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