Ω

□空色バイク
1ページ/3ページ






バイクについたライトが点滅しながら交差し、凄い勢いで斜め後ろに流れていく。

そのままの勢いでハンドルをきってUターンすると、コンクリートと擦れたタイヤが独特の音を立てた。

同じようにターンしてきた相手のバイクと正面から向かいあい、顔面を覆うヘルメットごしに睨みながら、さらに加速。


相棒である青いバイクが軋んだ音を叫び、俺は吹き付ける風に少しだけ目を細めた。






ォーン ブオン

…遠くの方で、バイクの音がした。

もういい加減慣れてしまったその爆音は、私にとっては子守歌にしか聞こえない。

うあ。

今日学校だ…

でもまぁ、眠いからいっか。

一日くらい休んでもだいじょーぶだいじょーぶ。

というわけで。


少しだけ開けかけた瞼を閉じて、ぼんやりとした眠りに身をゆだねた。


ブオンブオン



あれ、なんだか近所でなっているらしい。

腹に直接響いてくるその爆音は、窓をびりびりと震わせている。

ブオンブォン、ブォーン



急かすように響いてくるその音に、思わず飛び起きた。

うるさいうるさいうるさーい!
ぱんっ

叩きつけるように開けた窓からあたりを見渡すと、うちの前に一台のバイク発見。

爆音を吐き出しつつアクセルを回しながら、こちらを見上げる金髪男。

見慣れたその人は一学年上の幼なじみ、丹波智哉。


…ジャラジャラ付けてるシルバーアクセサリーがチャラすぎる上に、胸元を広く開け着崩した制服がさらにそれを強調する。


「姫サーン、ガッコ遅れるよー?」

「…迎えにくんなって言わなかったっけ?」

わざと低く出した声にも怯まずにこにこするチャラ男くん。

「そんなの言われたっけ?覚えてないやー」

うわー絶対覚えてるってアイツ。完全棒読みだもんさ。

「ほらほら学校遅れちゃうってば。」

「うー。五分待ってて」

うー、学校行きたくないわ……




ブオン、ブォーン

じれているらしく断続的にエンジン音が響く。

前々からご近所さんに迷惑だからエンジン切れっていってるのに、ききやしない。


玄関のドアに手をかけ、家の中に向かって私は声を張り上げた。

「行ってきまーす!」

「ゆーちゃん、いってらっさーい!事故らないようにねー!」
眠気の抜けない兄が、リビングのドアから顔を出してへにゃり、と手を振ってくる。

「うぃーす!」

後ろ手に手を振り返しながら、ドアを押し開け飛び出した。

フルフェイスのヘルメットをかぶった丹波に駆け寄る。

「お待たせー」

「…もう、遅刻だよ俺ら」

ムスッとした声とともに差し出された私専用のヘルメットを頭からかぶった。

「どうせいつものことでしょーが。」

「まぁね」

笑みを含んだ声と共に、バイクは動き出した。



私の通っている宗崎高校は、バイクで飛ばして走れば五分という近場にある。

あっという間についてしまった学校。

一時間め始まりのチャイムが鳴り響く中、下駄箱には生徒の姿はない。

「送ってくれてありがと。」

「明日も迎え行くから、ちゃんと起きてよね」

「…あー、うん。努力はする……」

「努力じゃなくてちゃんと起きる。分かった?」

「……頑張ります。」

「ん。」

大きな手で私の頭をくしゃくしゃにされる。

朝弱い私は目覚ましを何個かけても起きられない。

それを分かっていて毎日起こしに来てくれる丹波は、なんだかんだいって優しいのだ。

「じゃあ、俺行くわ」

「じゃあねー」

お互いに手を振って別れると、私は三階にある一年の教室に向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ