君との子育ての日々 2

□バブ63
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その頃


体育館から出ていった四人は、学園の中庭にいた

どことなく歩いてると、男鹿が唐突に口を開く


「古市…亜希、未希…言っていいか?」

「え、何?」

「なんだよ?こんなトコまで俺たちをつれてきて」

「オレ…、何してんの?」


動揺する男鹿は、自分自身に言うように古市に訊ねる


「何って…」

「だって、お前ら考えてみたらおかしくね!?」

(それを言っちまうか…)

「オレはあのチビをぶっとばしてーだけなんだよ!!
なのに、なんだ!?バレーボールって…!!」

「別におかしくねーよ、当たり前だろ?負けたら退学だぜ?」


まくし立てる男鹿に、古市は至極当たり前の答えを告げたが……


「ばかやろうっっ!!」

「なぜっ!?」


返ってきたのは、男鹿の強烈な拳


「古市っ!!」

「ちょっ、男鹿くん!?」


未希はすぐさま古市に駆け寄り、亜希は男鹿を宥めようとする

しかし、彼の怒りは収まらない


「目を覚ませ、古市っ!!」

「覚めてるよ!!てか、閉じかけたよっ!!」


殴られた頬を押さえ、古市は負けじと言い返す


「オレはケンカがしてーんだよ!!退学なんて、どーでもいいじゃない!!」

「いいわけねーだろ!!」


古市の言葉に亜希が続く


「そうだよ!!退学になったら、六騎聖と二度とケンカ出来ないんだよ!!」

「亜希ちゃんの言う通りだ!!お前が目を覚ませ!!」


猛反論する古市

しかし、男鹿の欲求は止まらない


「やだやだケンカしたいよーっ!!」

「ダーッ」


服が汚れる事も構わず、男鹿は地面を転がりながらダダをこねる


「ケンカケンカケンカケンカケンカケンカ」

「だだこねんな!!そこっ、ベル坊も!!」

「ってか、男鹿くん、服汚れちゃうでしょ!」


亜希が強く言うと男鹿は起き上がり、上目で彼女を見つめる


「そん時ゃ、亜希が洗うんだろ?」

「何を?」


亜希の返答を聞いていた古市は一人呆れ、脱力する


(そう返すの?)


ちょっと間の抜けた返答に、男鹿は恥ずかしがることなく言う


「オレの服」

「え……?」

「あ、そうだ。せっかくだし、今日は一緒に風呂入ろうぜ!!」

「ちょっ、やだよ〜」


二人の会話を聞き、古市は苛立ちが募る


(なんだよ、この妙に新婚の夫婦っぽい会話は)


しかも、この天然なイチャイチャは突然始まるもの

だが、本人達は無意識な為に怒れないのでタチが悪い


その時だった―――


――ズパァン!!――


重たい破裂音が轟き、思わず男鹿達は振り向く

音がした方に顔を向けると、そこには扉が開いた部室棟


「な…なんの音だ…?」


四人は駆け寄り、格子の隙間から中の様子を覗き込む

室内は道場になっており、たくさんのサンドバッグが吊るされてある

しかし、それらは破裂して中から砂が出ており、本来の機能が失われている

壊したのは、胴着を着て「フーッ」と息を整える三木であろう


「三木くん…」

(…なんだ?サンドバッグがちぎれてる…)


心配そうに呟く未希の古市は、室内の使い物にならなくなったサンドバッグを見て戦慄する


(三木がやったのか…?)

「古市君、古市君」


そこへ、亜希が古市の服の裾を引っ張る


「何?」

「男鹿くんがいない」

「え?」


一瞬、呆気にとられた古市は、亜希の先を見る

ついさっきまで彼女の側にいた男鹿が、確かにいなくなってる

だが、すぐに察した


(―――おいおい、まさか)


破裂したサンドバッグが散乱する室内で、三木は一息つく

そこへ、背後から男鹿の声がかかる


「よう」


振り返るも、そこには誰もいない

だが、声の主は察していた


(この声…男鹿…?)


確認の意味で、三木は声の主に告げる


「ここは部外者は立ち入り禁止だよ…」


声の主の返答は、軽いもの


「カタい事言うなよ。いっちょ、オレに試してみろや」


挑発する声の主の正体を知る古市は、格子の隙間から内心で焦る


(おいいっっ、今ケンカなんてしたら…)


その隣で、亜希は遠い目で笑顔を浮かべる


(男鹿くん達の退学、確定かな…)

(亜希ちゃん、決めつけんの早い!)


古市が諦めかける亜希に叫んでいると、思わぬ人物が現れる


「ベルちゃん!!」


マジックで描いたのだろうか―――

濃い眉毛のベル坊が、厳つい顔つきで道場の入り口に佇んでいた


「ベルくん…!」

「ベルちゃーん!」


道場の中と外の三木と古市は絶句し、亜希は驚愕、未希は目を輝かせてベル坊の登場を喜んだ

いずれにしても皆の視線を集めたベル坊は、来いやとでも言うように『クイクイ』と手招きする

冷ややかな眼差しでベル坊を見つめる三木の背後に、男鹿が現れる


「残像だ」


悪魔の笑みを浮かべて


「何が?」


登場の仕方にた三木は青筋を立て、静かな苛立ちを見せた


―――――――――


三木は男鹿と向き合うと、彼の足元に黒い胴着を投げる


「?なんだ?」

「着な」


短く言い放った三木は、振り向きながら冷たく告げる


「ケンカじゃなくて、手合わせなら問題ないだろう?僕も、バレーの練習にうんざりしてたトコだ」


そして、再び背中を向けながら続ける


「お望み通り、見せてやるよ。出馬八神(いずまはっしん)流の奥義を…」


後ろ姿から伝わる、静かな闘志


男鹿は険しく眉を潜め……


「……」


渡された胴着を手に取り、用心深くクンクンと汗臭くないか匂いを嗅ぐ


「ちゃんと洗ってあるよっ!!」



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