+α

□顔はやめて
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「あぁ…セバスちゃん……」
美しい月を横目に、アタシは言った。
「朝なんか来なければいいのに。そうしたらいつまでも、こうして二人、殺(あい)し合っていられるのに」
ねぇ?セバスちゃん。貴方もそう思わない?
「でも、アバンチュールはここまでよ」
アタシはセバスちゃんに思いッ切り頭突きをした。
<ガッ>という良い音がして、…ハァ……刺激的な痛み。
「……ッ!!」
「情熱的なキッスでお別れヨ」
セバスちゃんを見下ろしながら、アタシは続ける。
「セバスちゃん」
そして、死神の鎌を振り上げて。
「それでは、幾千にも幾万にも――ごきげんよう」
嗚呼セバスちゃん。貴方の走馬灯劇場を、見せて頂戴!
アタシは死神の鎌を振り下ろした。
<ドッ>
真っ赤な血。全部セバスちゃんから吹き出たモノ。
「さぁ、ドラマティックな走馬灯を……」
<ザアァァァア…>
<ぱッ>
『ほっほっほ――』
え??
なにコレ…何なの!?
『うわあああん!!セバスチャンさ――』
『]]](30)杯入れたら泡だらけに――』
『料理は芸術だろィ――』
<ザアァァァア…>
「ちょッ…ちょッちょッ…ちょっと!!なんなのヨコイツらぁぁぁッ!!?ドラマ性のカケラもないッ!!」
アタシは思わず叫んだ。
「ここ一年程は、そればかりの毎日でしたからねぇ…」
セバスちゃんが咳込みながら言う。
「こんな凡人共に興味ないのよ!美しくないッ!!もっとオイシイトコ見せなさいよッ」
なんなのよッもう!!セバスちゃんにこんな走馬灯、似合わないわ!
「残念ですが」
突如、後方に殺気を感じた。
「ここから先は有料です」
!バックを取られた!!
「チッ」
<ズバッ>
セバスちゃんの鋭い蹴りが、アタシの顎を掠める。
「嗚呼…また服がボロボロになってしまった…。肩くらいなら繕えばまだ着られると思っていたんですが…コレはもう駄目ですねぇ」
「こんな時に服の心配なんて余裕じゃない。傷が浅かったってコトかしら」
…何としてもアタシの花の顔を狙うのねこの悪魔…
「でも身だしなみに気を遣う男って好きよ」
アタシはもう一度、死神の鎌を構え直した。
「セバスちゃん!」
<ギャララララッ>
セバスちゃんは「フーッ」と長く息を吐くと、<バサッ>と燕尾服を脱いだ。
「この方法だけは使いたくなかったのですが…仕方ありません」
セバスちゃん…目が輝いてるわッ!
「ンフッ……ようやくアタシに本気になってくれるのね?」
<ヒュウゥ……>
何の前兆かしら……風が吹いてきた…。
「次の一撃で終劇にしましょうか、セバスちゃん。この世にさようならを。あの世で結ばれまショ?」
アタシもセバスちゃんも、一歩前進。
「セバスちゃん!!」
そして、走り出す。
<ダッ>
<ギャララララッ>
「!!?」
アッアタシの…アタシの死神の鎌が!!!
「…え?」
<ギギッ>
「エエェェェェーッ!!?止まったーッ!!?」
ななななんで!?アリエナイわッ!!
「その武器が回転する事で、あの切れ味を生み出しているのでしたら、その回転を止めてしまえば良いかと思いまして」
澄ました顔でセバスちゃんは言った。
「こんなモノすぐに取って…!!」
アタシは「ぬぬぬ…!!」と力を入れ、燕尾服を引っ張る。
「その燕尾服は上質なウールで出来ています。ウールは布の中でも特に摩擦力が強い。一度かんだらなかなかとれませんよ」
「どんだけぇえ!!?」
「お屋敷からの支給品ですし、どうしても燕尾服だけは使いたくなかったのですが」
セバスちゃんは「はーあ」と溜息をついた。
「仕方ありませんね。すでにボロボロでしたしねぇ」
くッ…セバスちゃんめ…!
「全てが切れる死神の鎌。使えれば…ね」
セバスちゃんは「クスッ」と笑うと、ゆっくりアタシに歩み寄って来た。
<コッ>
「あ…」
「さぁ…グレルさん」
<コッ…>
「死神の鎌は、もう使えませんよ?」
セバスちゃんの冷酷な目が、アタシを見下ろす。
「あ…ああ…ッ」
「ただの殴り合いでしたら、少々自信がございます」
いゃぁッ…なんでそんなに笑顔なのセバスちゃん…!?<バキボキ>と指を鳴らさないで…!!
「あっ…ちっ…ちょっと待って……かっ…顔はやめてえぇぇえぇーーぎぃやーー――――――」


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